『トリツカレ男』上白石萌歌&atagiが対談。佐野晶哉とのデュエットで「声や気持ちを重ねて歌う楽しさを発見」
2001年に刊行されたいしいしんじの小説を原作にした、ミュージカルアニメーション『トリツカレ男』が、11月7日(金)より公開となる。「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」シリーズのシンエイ動画による制作で話題の本作は、Awesome City Clubのatagiが手掛ける音楽と歌が、切なくて心温まる物語をファンタジックに引き立てる。ヒロインのペチカ役を演じた上白石萌歌と、劇場作品の音楽を手掛けたのは初というatagiの対談が実現。『トリツカレ男』の音楽の魅力に迫った。
「atagiさんの“音楽の色”は、原色っぽくてクレヨンで描いた質感に感じます」(上白石)
――お二人はもともと面識があったのですか?
上白石「私はadieuという名義で歌手活動もさせていただいているのですが、一度だけ音楽番組内で。でも本当に軽く、すれ違いざまにご挨拶をさせていただいたくらいでした」
atagi「覚えています。その時は、まさかこのようなかたちでご一緒させていただくことになるとは思いもしませんでしたけど」
――上白石さんは今回、劇中歌「ファンファーレ ~恋に浮かれて~」と「あいのうた」を歌われていますが、改めて感じたAwesome City Clubの音楽の魅力や『トリツカレ男』ならではの魅力をどう捉えたか教えてください。
上白石「『ファンファーレ ~恋に浮かれて~』は男女のツインボーカル曲だったので、まさしく“オーサムさん節”をすごく感じました。それとオーサムさんのイメージとして、かねてより都会的なイメージを持っていたんです。色で言うとちょっとスケルトンの青と言うか、都会の夜っぽいような。でもこの『トリツカレ男』のなかでatagiさんが作られた音楽の色は、原色っぽくてクレヨンで描いた質感のような、いつものオーサムさんから感じる色とは、ちょっと違うニュアンスを感じました。でも音域がすごく広くて大変で、実はレコーディングでは高音を少し下げてもらったんです」
atagi「でも、下げて正解でした」
上白石「そうですか!」
atagi「萌歌さんの声の艶のあるポイントに、ちゃんとハマることができた感じがしました。だから相談してくださってよかったです」
上白石「ありがとうございます。原キーで歌うのがとても難しくて、オーサムさんの曲の持つあの独特な浮遊感は、たやすくできるものではないんだなと改めて実感しました」
「ペチカ役は、本当に萌歌さんしかいなかっただろうな」(atagi)
――上白石さんの歌声について、ジュゼッペ役の佐野晶哉さんは「その場を逃げ出したくなった」、原作者のいしいしんじさんは「楽器の生演奏を目の前で聴いているようだった」とコメントされています。atagiさんはどのように感じましたか?
atagi「萌歌さんの『あいのうた』を聴いた時、『それは』という歌い出しなんですけど、“ぽっかり感”が本当によくて」
上白石「へえ〜!」
atagi「ぽっかりと言うと寂しそうに感じるかもしれませんが、心の中で共鳴している心の声という意味で、すごく鳥肌が立ちました。だから最初の一節を聴いただけで、『この曲はもうOKだな』って。声って授かり物だと思うんですけど、なんて言うか、“ずっとそこにあった歌声”じゃないかと思ったんです。作中に出てくるみんなが無垢で、愛らしい人たちばかりなんですけど、その雰囲気ともすごくマッチしていて。ペチカ役は、本当に萌歌さんしかいなかっただろうなと思わせてくれました」
上白石「ありがとうございます。実は、歌を録ったのは、お芝居部分の声を録る数か月前で、急に決まったんです。自分としてはまだ役の輪郭がはっきり定まっていなかった時期だったから、『どうしよう』と思いながらレコーディングに臨んだんですけど…私も歌のなかで『ペチカってきっとこういう人だし、ペチカの目で見ている世界って、きっとこんな感じだろうな』と、atagiさんが作ってくださった曲を通して感じることができました。だから、歌を先に録らせてもらえたことは、ペチカの役作りのうえですごくよかったと思っていて。先に歌ったことによって、自分のなかでペチカという役が見えた気がして、楽曲にすごく助けていただきました」
atagi「いやいや、とんでもないです。でも本当に大変だったと思いますよ。お芝居が始まる前に歌を録るのは。単に歌うだけでなくお芝居の一部としてだから、すごく難しいだろうなと思いながら横で見ていました」
――レコーディングにはatagiさんも立ち会われたのですね。
上白石「はい。atagiさんが立ち会われるということで、ド緊張して『どうしよう!』ってなりました(笑)。フレーズのニュアンスをディレクションしてくださる時に、atagiさんが実際に歌ってくださったことがあって。こんな間近でatagiさんの歌を聴いてしまって『いいんですか!?』ってドキドキしました」
atagi「ドキドキしたのはこちらこそです(笑)」
――atagiさんは今回の仕事を引き受けるにあたり、2か月悩まれたとうかがいました。実際に携わられてみて、いかがでしたか?
atagi「曲作りが始まった時は、実際にどんな方が歌われるのかまだわからない状態でしたし、作中でペチカはどういう言葉使いなのかとか、登場人物たちのパーソナルがわからないまま曲作りに着手していて。確か『あいのうた』の制作途中で、萌歌さんに決まったことを知ったんじゃなかったかな。でも結果として、『こういうことでいいのかな?』と自分のなかでさんざん逡巡していた些末な心配事も全部塗り替えるくらい、皆さんの歌声のパワーに圧倒されました。萌歌さんも、佐野さんのお声も本当にぴったりだなと、出来上がった時は心底ホッとしました」

