大胆かつ繊細なキャラデザが動き出す多幸感…高橋渉監督『トリツカレ男』から伝わる、シンエイ動画の貫禄と挑戦

コラム

大胆かつ繊細なキャラデザが動き出す多幸感…高橋渉監督『トリツカレ男』から伝わる、シンエイ動画の貫禄と挑戦

『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボと一ちゃん』(14)で知られる高橋渉監督の最新作、『トリツカレ男』(公開中)。夢中になるとほかのことは一切見えなくなる“トリツカレ男”ことジュゼッペの奮闘を描く、ハートフルで大人も泣ける、ラブストーリー・ミュージカルだ。

佐野晶哉(Aぇ! group)や上白石萌歌による劇中歌の歌唱シーンがSNSを中心に高い評価を得ている本作だが、まず目に入るのはこの絵本のような美麗かつ独特な作画だ!そこで本稿では、本作のアニメーションを制作したシンエイ動画について解説しながら、高橋監督の描く世界や「クレヨンしんちゃん」との関係性、そしてキャラクターデザインの魅力をひも解いていきたい。

「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」でおなじみ!意欲的な作品も制作してきたシンエイ動画

まずは本作のあらすじを紹介しよう。主人公は、なにかに夢中になるとほかのことが見えなくなるまでのめり込んでしまう青年ジュゼッペ。その姿が、トリツカレたように見えることから周囲の人々から“トリツカレ男”と呼ばれている。これまでにも、歌、探偵、外国語、三段跳び、カメラ集め…などなど、あらゆることにトリツカレてきた彼だが、ある日、公園で風船を売っている女性ペチカに一目惚れする。彼女の心には悲しみがあることを知ったジュゼッペは、これまでトリツカレてきた様々な事柄を活かしてその悲しみを解決するため奮闘するのだった。

「ドラえもん」&「クレヨンしんちゃん」などのシンエイ動画の最新作『トリツカレ男』の特徴を解説
「ドラえもん」&「クレヨンしんちゃん」などのシンエイ動画の最新作『トリツカレ男』の特徴を解説[c]2001 いしいしんじ/新潮社 [c]2025映画「トリツカレ男」製作委員会

アニメーション制作は「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」など国民的アニメで知られる、シンエイ動画が担当し、監督をこちらも「映画クレヨンしんちゃん」シリーズを手掛けてきた高橋監督が務めている。シンエイ動画と聞くと、その創業時代から制作してきた「ドラえもん」を代表とする子どもからも大人からも愛される長寿アニメを制作している会社というイメージが強い人も多いだろう。だが、近年ではテレビアニメ「からかい上手の高木さん」や「僕の心のヤバイやつ」の制作をはじめ、「銀河特急 ミルキー☆サブウェイ」の企画制作などといったファミリー向けにとどまらない作品を世に送り出していることはご存じだろうか。

そこに追い風を加えているのが既存のテレビシリーズの映画化とは異なる単発の劇場アニメだ。戦時中のこどもたちの日常芝居を丁寧に積み上げることでリアル感を高めた『窓ぎわのトットちゃん』(23)、実写で撮影した映像と音声をもとにアニメーションを作り上げた『化け猫あんずちゃん』(24)などを制作。そのクオリティの高さから数々の映画祭にも出品され高評価を得ている。また今冬には各界のクリエイターが絶賛する戦争マンガをアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』(12月5日公開)の公開も予定されている。

ジュゼッペが一目惚れをする風船売りの女性ペチカ
ジュゼッペが一目惚れをする風船売りの女性ペチカ[c]2001 いしいしんじ/新潮社 [c]2025映画「トリツカレ男」製作委員会

シリーズ作品で安定した評価を受け老舗スタジオとしての貫禄を見せつつも、新たな表現手法にも挑み続けるシンエイ動画。来年に創立50周年を迎えるいま、長い歴史のなかでも類をみない盛り上がりをみせているのではないだろうか。そして、シンエイ動画が培ってきた「子どもが楽しめる躍動感あるアニメーション」と「思わず大人も泣いてしまうストーリーテリング」、そして「新たなアニメーション表現への挑戦」の3つが掛け合わさったのが、今回の『トリツカレ男』ということになるのだ。


映画館が楽しい空間に!“トリツカレ男”ジュゼッペの真っ直ぐな想い

本作はラブストーリー・ミュージカルで、メインストリームは実にシンプルだ。とはいえ、それが退屈だと感じる暇はない。ジュゼッペがあの手この手で繰りだすアプローチにヤキモキしたり、ジュゼッペにアドバイスをする親友のハツカネズミのシエロに相槌を打ったり、ツイストダンスが得意なギャング、ツイスト親分に笑いを誘われたり、アクションにドキドキし、手に汗握るシーンもある。また、キャラクターや背景デザイン、色彩、アニメーションならではのエフェクト(特殊効果)の表現も美しく、映画館ではその世界観に包まれる楽しい時間を過ごせるはずだ。

近年のシンエイ動画作品に連なる創意にあふれた『トリツカレ男』
近年のシンエイ動画作品に連なる創意にあふれた『トリツカレ男』[c]2001 いしいしんじ/新潮社 [c]2025映画「トリツカレ男」製作委員会

原作は2001年に刊行された小説『トリツカレ男』(新潮文庫刊)で、作者はいしいしんじ。これまでにも演劇集団キャラメルボックスなどで舞台化されている人気作だが、アニメ化は今回が初となる。メインキャラクターの声優には、圧倒的歌唱力を持つ3人が選ばれている。ジュゼッペ役を務めるのは佐野晶哉(Aぇ! group)。子役として劇団四季の舞台に出演、高校と大学では声楽や音楽を学んでおり、オペラ(歌)にもトリツカレたジュゼッペには適役だ。ペチカ役は、映画や舞台で活躍し、adieu名義でアーティスト活動も行う上白石萌歌。ジュゼッペの親友、ハツカネズミのシエロ役は、劇団四季に所属していた経験をもち、数々のミュージカル作品で主演を務める俳優の柿澤勇人が演じている。

ほかにも、ツイスト親分には昨今では声優としての活動も目立つ芸人の山本高広。ツイスト親分と縄張り争いをしているサルサ親分は川田紳司。ペチカの母に水樹奈々。子どもたちにアイスホッケーを教える先生、タタンには森川智之と、周囲を固める魅力的なキャスティングにも注目してほしい。

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