「春のワルツ」から「匿名の恋人たち」の天才ショコラティエ役まで。型にハマらず挑戦を続ける韓国の国民的女優ハン・ヒョジュの魅力
10代でデビューし、「春のワルツ」や「W-君と僕の世界-」といった人気ドラマや『ビューティー・インサイド』(15)などの映画で主人公を演じてきたハン・ヒョジュ。瑞々しい魅力はそのままに、近年はアクションやハードボイルドな役柄にも挑戦し俳優としての幅を広げてきた。Netflixで配信が始まった「匿名の恋人たち」では、“人の目を見ることができない”ために、隠れて暮らす天才ショコラティエをチャーミングに演じている。そんなヒョジュの魅力をこれまでのキャリアを振り返りながら見ていきたい。
潔癖症、視線恐怖症を持つ男女が“大丈夫な相手”と出会い仲を深めていく「匿名の恋人たち」
フランス映画『匿名レンアイ相談所(原題:Les Emotifs anonymes)』(10)を原作に、日韓のスタッフと豪華俳優陣が集結して制作された「匿名の恋人たち」。極度の潔癖性で“人に触れられない”という秘密に悩んできた大手製菓メーカー、双子製菓の御曹司が、なぜか“触れても大丈夫”な女性と出会ってしまったことから物語が始まる。ヒョジュが演じているのは、韓国出身のショコラティエ、イ・ハナ。自らの才能を見抜いてくれた有名チョコレート店「ル・ソベール」のオーナーである黒岩健二(奥田瑛二)の誘いで日本にやってきた彼女は、“匿名のショコラティエ”として、自作のチョコレートを店に納品しながら暮らしていた。しかし、黒岩の急死によってル・ソベールは大手菓子メーカーの双子製菓に買収され、新代表として会長の息子である藤原壮亮(小栗旬)がやってくる。これまでのやり方でチョコレートを納品できなくなったハナは、自分が匿名のショコラティエであることを隠して、ル・ソベールで働きだす。
壮亮役は久々のラブコメ作品への出演も話題の小栗。互いに特別な関係でありながら、なかなかそのことに気づかない2人の関係をロマンティックかつユーモラスに見せている。ヒョジュのセリフはほとんどが日本語だが、独り言や思わず出てしまう言葉として韓国語が織り交ぜられている。壮亮の思惑を疑っている前半では、彼に対する不満を韓国語でつぶやき、「いま、悪口を言いましたね」と咎める彼にとぼけた顔を見せる姿が笑いを誘う。後半では、韓国語で「愛」を意味する「サラン」という言葉が、2人をつなぐ大切な言葉として登場する。
様々なラブストーリーで難易度の高いキャラクターを好演
日本の韓流ブームの原点と言える「冬のソナタ」を手掛けたユン・ソクホ監督に抜擢され、弱冠19歳で「春のワルツ」のヒロインを演じたヒョジュ。2010年には、韓国ドラマ界を代表するもう一人の巨匠イ・ビョンフン監督の時代劇「トンイ」の主人公として、波乱万丈の人生を生きる女性を演じきった。両作への出演により、日本でも広く知られるようになった。
デビュー以来、多彩な役柄を演じてきたヒョジュだが、キャリアの前半では、やはり、ラブストーリーのイメージが強い。インターネットを活用し、ユーザーが参加する「ソーシャル・フィルム」として話題となった原案を、豪華キャストの共演で映画化した『ビューティー・インサイド』では、目が覚めるごとにまったく違う姿となってしまう相手と付き合い、愛を育んでいく女性に扮した。毎日、まったく別人のように見える相手を「ひとりの人間だ」と信じ、受け入れるまでの葛藤と心の変化を繊細に表現。「梨泰院クラス」のパク・ソジュンをはじめとする俳優たちだけでなく、上野樹里などの女性キャスト陣までが同一人物に見えてくるのは、ヒョジュの素直なリアクションあってのことだった
『告白、あるいは完璧な弁護』(23)のソ・ジソブと共演した『ただ君だけ』(11)では、ある事故をきっかけに視力が大幅に低下してしまった女性役。失明してしまう日がやってくるのを恐れながらも、明るく暮らす姿を見せた。そんな彼女と元ボクサーの恋を描くこの作品では、全編、“目がほとんど見えない”という難しい演技が要求されたが、力むことなく、愛する相手と出会った喜びや、お互いを慈しみ合う恋人同士の慎ましくも幸せな同居生活を表現。本作のモチーフとなったチャールズ・チャップリンの名作『街の灯』(31)を思わせるクラシカルな物語のヒロインがよく似合っていた。

