ナイン・インチ・ネイルズが電子の神殿に降臨!『トロン:アレス』で導きだした次世代につながるエレクトロ・ミュージック
未知の存在に遭遇した衝撃をシンセサイザーで表現
人類が未知の存在に遭遇した時の衝撃をシンセサイザーによって表現した「イン・ジ・イメージ・オブ」、レゾナンスの効いた重低音ベースが唸る「インフィルトレイター」といったインストトゥル・メンタル・ナンバーは、AIが現実を凌駕する『トロン:アレス』のテーマを、サウンドそのもので体現している。
機械に宿る“残響としての感情”を描きだすボーカルトラック
4曲あるボーカルトラックも聴き逃せない。「アズ・アライヴ・アズ・ユー・ニード・ミー・トゥ・ビー」と「シャドウ・オーヴァー・ミー」は、初期NINをフロア仕様に進化させたかのようグランジーなダンスチューン。
トリップホップ的な幻想性を帯びた「アイ・ノウ・ユー・キャン・フィール・イット」も深い余韻を残す佳曲である。
そしてハイライトは「フー・ウォンツ・トゥ・リヴ・フォーエヴァー?」。スペインのシンガー、ジュデリンの透明な声と、レズナーの壊れそうなヴォーカルが交錯することで、機械に宿る“残響としての感情”を描きだす。ライブ映えすること間違いなしの、NINの新たな代表曲と呼ぶにふさわしい完成度だ。
『トロン:アレス』の音楽は、映画作曲家としての理性に、レズナーがこれまで封印してきたロックミュージシャンとしての衝動を融合させた結晶である。電子の神殿のなかで、テクノロジーとエモーションは一つになった。そのビートは、もはや冷たい機械音ではない。アルバム全編に鳴り響くバスドラムは、レズナー自身の心臓の鼓動なのかもしれない。
文/長谷川町蔵
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