A24映画『The Smashing Machine』がヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞!熱のこもった監督&キャストによる会見を現地レポート
「ベニーの自然発生的な撮影方法は、本当にエキサイティングでした」(ブラント)
この映画は、1990年代の「男性の無敵さ、男性の能力」が強調された時代を背景に、男性の脆弱性を描いている。ブラントは、実際にケアーの妻、ステープルズに話を聞き、役作りを行ったという。「この映画に、女性が描かれていることがうれしかったです。なぜなら、閉ざされたドアの向こうで多くのことが起こっていたと想像するからです。格闘家と共に生きるということ、存在すべてが消費されてしまう世界について。私は、実際にドーンから、彼女の後悔、感情の爆発、時には危険な関係性の本質、そして極限のなかでも深遠な愛と献身をお互いに持ち続けることについての話を聞きました。私がこれまで参加した映画では、精密に作られた関係、つまり“映画化された”関係の一部となることが多かったのですが、今作では、関係性が実際にどのように変化していくかの範囲を感じることができました。なぜなら、人間関係は1時間ですっかり変化してしまうからです。ベニーの自然発生的な撮影方法で、そのように動けたことは本当にエキサイティングでした。毎日、私たちを制御するものが外れたような感じがしていました」と説明した。
格闘シーンの撮影について、サフディ監督は独特のアプローチを取った。「リングには入らず、カメラは常に外側にいるという原則を徹底しました」と説明し、観客として実際に試合を観ているような体験を提供したいと考えたそうだ。ジョンソンも、「その瞬間を生き、ベニーが言うように、可能な限りリアルであることに身を委ねました」と認める。サフディ監督は、「格闘シーンの撮影を終えたあと、私たちは何度もお互いをただ抱きしめ合いました。なぜなら、私たちみんながリングの中にいるような気がして、一緒にマークの感情を感じていたからです」と、ジョンソンに対し敬愛の表情を見せていた。
カメラの動きや映像の質にこだわったサフディ監督の手腕で、1990年代の格闘技の世界を追体験するような映画になっている。ケアーが活躍した日本の「PRIDE」のシーンも多く、布袋寅泰の演奏シーンもあるほか、日本人俳優も多数参加している。ジョンソンをケアーに変身させた特殊メイクは、数々のアカデミー賞受賞で知られるカズ・ヒロが手掛けている。1990年代日本のシーンは日本人の目から観ても違和感がなく、サフディ監督のこだわりと理解度の高さが感じられた。
サフディ監督は、今作でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞。スピーチでは映画祭や、彼を信じ映画を共に作った俳優たち、プロデューサー陣に感謝が述べられた。特に、ケアーの渾身的な戦いに賛辞を惜しまない。サフディ監督の「マークは、私を信頼して彼の物語を語ってくれました。彼が自身の人生を戦い抜いたからこそ、私たちはその戦いに想いを馳せることができます。私はこれを「ラディカル・エンパシー(過激な共感)」と呼ぶ実践にしたいと考えました。もしも私たちが、一見無敵に見える人物にも共感できるなら、誰とでも共感できるはずです。そして今、共感はこれまで以上に重要です。だからこそ、これは私たち全員が目指すべきことだと考えています」という受賞スピーチに、万雷の拍手が送られた。
『The Smashing Machine』の日本公開時期は未定。続報を楽しみに待ちたい。
取材・文/平井伊都子
