「ババヤガの夜」で日本人初ダガー賞受賞の王谷晶、映画『愛はステロイド』に熱狂!「ついにこういう映画が出てきたという、驚きと喜び」

「ババヤガの夜」で日本人初ダガー賞受賞の王谷晶、映画『愛はステロイド』に熱狂!「ついにこういう映画が出てきたという、驚きと喜び」

『ミッドサマー』(19)、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)、『関心領域』(23)などを手掛けてきたスタジオA24の最新作『愛はステロイド』(8月29日公開)。8月21日、ユーロライブで本作のトーク付きイベントが行われ、世界最高峰のミステリー文学賞・ダガー賞を日本人作家として初めて受賞した「ババヤガの夜」の著者、王谷晶が出席した。

【写真を見る】『愛はステロイド』と「ババヤガの夜」に共通するのは…?
【写真を見る】『愛はステロイド』と「ババヤガの夜」に共通するのは…?

大胆で示唆に富んだストーリーテリング、刺激的な演出、そして俳優陣の化学反応が各所から絶賛され、ゴッサム・インディペンデント映画賞をはじめとする世界各国の映画賞に44ノミネートを果たし、第74回ベルリン国際映画祭にも出品された『愛はステロイド』。父親を嫌悪しながらもその影響下から逃れられない女性ルーと、ボディビルで名をあげることを目指しながら旅をしているジャッキーが出会い恋に落ちるが、2人は町の裏社会を仕切るルーの父親をはじめ、ルーの家族が抱える闇に巻き込まれていく。

「クライマックスのあのシーンがあるからこそ、どの映画とも違う、観た人の記憶に残る作品になった」

ステージのMCを担当した奥浜レイラから「ダガー賞、おめでとうございます」と祝福され、会場から拍手を浴びた王谷は、「この本を書いたのは6年近く前になるので、今回の受賞は翻訳のサム・ベットさんのお力によるもの。自分が積極的になにかをしたという意識はあまりなくて、ボーッとしているうちにえらいことになったな、というのが正直な気持ち」と明かして、会場も大笑い。「サム・ベットさんは非常にアクティブで、ものすごく元気な方。これは自分の仕事のなかでも大きなことだと喜んでいらして、よかったです」と翻訳者に敬意を表していた。

『愛はステロイド』に惚れ込んだ王谷晶
『愛はステロイド』に惚れ込んだ王谷晶

あまりメディアに登場することのない王谷だが、著書「ババヤガの夜」と本作に共通して描かれる“シスターハードボイルド”に惚れ込み、この日の登壇が実現した。

王谷は「ついにこういう映画が出てきてくれたんだなという、驚きと喜び」と本作で得た興奮について切り出し、1991年に公開されたリドリー・スコット監督による名作で、シスターフッド映画の金字塔とも言われる『テルマ&ルイーズ』のタイトルを挙げながら、「『テルマ&ルイーズ』から四半世紀以上が経って、やっと新たにこういった作品が出てきてくれたんだと強い喜びがありました」と大いに感銘を受けたと告白。シスターフッド作品のなかでも、現代性を感じたという。「主人公のルーが、レズビアンであるということが明確になっている。また彼女と父親との間には諍いがあるけれど、そこにルーのセクシュアリティはあまり関係がないところが、現代の話だなと。これまでは主人公が性的マイノリティで、その親が出てくるとなると、マイノリティであることによって(家族の間に)諍いやすれ違いが起きたりすることがよく描かれてきた。でも本作では“問題はそこじゃない”という描き方をしているのが、新鮮でした」と吐露。王谷自身、クィア当事者であることから「(セクシュアリティの問題について)うちは『あ、そう』で済まされてしまったくらいなので、そういうタイプの家庭もある」と実感と共に語る。

『愛はステロイド』は8月29日(金)公開
『愛はステロイド』は8月29日(金)公開[c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

劇中では、ルーをクリステン・スチュワート。ルーと運命の出会いを果たす流浪のボディビルダーのジャッキーを、スチュワートと同じくクィアであることを公表しているケイティ・オブライアンが演じた。オブライアンが主演級の作品を初めて観たという王谷は、「フィジカルの説得力がすごかった。経歴を拝見したら、実際にボディビルダーをやられていて、格闘家や警察官もやっていたという納得の経歴があって。それでもここまでの体に仕上げるのは相当な苦労があったんだろうなと。あの肉体でなければ、この映画にはならない」とキャスティングとオブライアンの役作りに惚れ惚れ。さらに、クライマックスにジャッキーの身体にはある驚きの展開が起きるが、そこでは「『マジか』と声が出た」という。「ローズ・グラス監督はこれが長編2本目で、キャリア的にはまだ若い監督。A24のバジェットもそこそこ大きい映画で、“あれ”をやれてしまうのはすごい。胆力があるというか、勇気とガッツのある監督」と称えながら、「あのシーンがあるからこそ、どの映画とも違う、観た人の記憶に残る作品になったと思います」と熱を込めていた。

ルーを演じたクリステン・スチュワートの「閉塞的な田舎で暮らしている、ルーの青年感」を高く評価
ルーを演じたクリステン・スチュワートの「閉塞的な田舎で暮らしている、ルーの青年感」を高く評価[c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

一方のスチュワートについては、「子役のころからキャリアの長い俳優さんですが、いくつになっても若者感があり、どこか寄る辺ない感じがする。そういった繊細さと同時に、ふてぶてしいところが演技に出る俳優さんだと思っていて。ほかの同世代の俳優には、まったくない味を持っている人」と唯一無二の存在だと語る。続けて「国籍で語るのもなんですが、アメリカ人俳優とかヨーロッパ俳優など、そういった括り方で当てはめられないタイプ。特徴的なルックだけれど、なんにでもなれる人。閉塞的な田舎で暮らしている、ルーの青年感。少年少女に近いような佇まいがよく出ていて。地方出身者としてもグッとくるものがありました」と絶賛。

ジャッキー役のケイティ・オブライアンの役作りに驚愕!
ジャッキー役のケイティ・オブライアンの役作りに驚愕![c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

ジャッキーと出会うまで、ニューメキシコ州の田舎町で単調な毎日を過ごしていたルーだが、王谷は「ルーは、父親が経営しているジムで働くしかなかった」と心理学で“父の娘”と言われる、父親の支配下で育ってしまったキャラクターだと分析し、「なんとかしなければと考えることすら諦めているような、そういった裏ぶれた感じを出すのが、クリステンはすごくうまくて。暗い顔がうまい俳優さんって、すばらしいと思うんです。彼女は暗い目がすごく魅力的。この役はドンピシャ」とこちらも絶妙なキャスティングだと、賛辞を重ねていた。


作品情報へ

関連作品