【ネタバレあり】リドリー・スコットの世界観が炸裂!『ブレードランナー』要素も垣間見える「エイリアン:アース」第3話レビュー
『ブレードランナー』との共通点が多数?“リドリー・スコット・ユニバース”としての「エイリアン:アース」
そんななか、スコットファンが気になるのは『ブレードランナー』(73)の要素ではないだろうか。エイリアンを積んだウェイランド・ユタニ社の宇宙船が墜落したのはニューサイアム。“サイアム(Siam)”は日本では「シャム」と呼んでいたタイの昔の国名で、現在の首都バンコクには実際にサイアムというエリアがある。アジア人がひしめくその街の風景はやはり『ブレードランナー』と重なるし、音声つきの電子公告が流れていたり、電飾に日本語のカタカナで「エマズ(EMMA’S)」と書かれていたり。
もっと深読みすると、エイリアン奪取に固執するモロー(バボー・シーセイ)が、目的達成のために利用するべくスライトリー(アダーシュ・ゴーラヴ)に連絡を取るシーンは、デッカードがレイチェルに電話していたバーの雰囲気に似ているように感じるし、プロディジー社のラボを掃除しているアジア人のおじさんと彼の服装は同じく『ブレードランナー』のレプリカントの目玉を創っていた博士を思い出す。そして、プロディジー社のエイリアンを調べるラボには実験用だと思われる羊の姿も。『ブレードランナー』のフィリップ・K・ディックによる原作タイトルは「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」だったではないか。
そういう『ブレードランナー』濃度をより高くしているのはやはりアンドロイドの存在だ。『ブレードランナー』では彼らのことをレプリカントと呼び基本的には命の長さが決められていた。だが、最新型のレイチェルは永遠の命を持ち、その人間的な記憶は、生みの親、タイレル博士の姪のものを移植していた。本作のハイブリットと重なるのだ。
そして、注目すべきは、墜落した宇宙船の唯一の生き残り、保安責任者のモローだろう。直接ユタニ社のトップと連絡を取ることができ、「あの生物(エイリアン)は私のライフワークです」と意味シンな発言。さらに「すべてマシンなら、オレみたいに人間の闇が残らないんだが」と語り、かつて娘がいた記憶もあるという。そして、ハイブリットのスライトリーに「マシンはマシンのままか?」と、なにやらディック的な問いかけまでする。やはりエイリアンとアンドロイドにはなんらかの関係性があり、だからこそ彼にとっては「ライフワーク」なのかもしれないという仮説を立てることもできそうだ。モローがどんなタイプのアンドロイドで、どういう目的を持っているのか。彼は本シリーズのキーパーソンに違いない。
そもそもアンドロイドは、シリーズにとってエイリアンと同じくらい重要なキャラクターだった。すべてのシリーズに登場し、スコットがメガホンを取った『プロメテウス』(12)と『エイリアン:コヴェナント』(17)では主役に昇格していたくらいだ。余談だがスコット、アンドロイドが好きだし、人間でもアンドロイドのような人が好きだと言っていた。わかるような気がする…。
映画シリーズの最新作『エイリアン:ロムルス』(24)にも『ブレードランナー』へのオマージュがたくさん散りばめられていた。それについて監督のフェデ・アルバレスは「『エイリアン』と『ブレードランナー』、どちらの作品も“リドリー・スコット・ユニバース”に属しているわけで、僕たち多くのファンにとっては2本のユニバースの境界線は曖昧だと思う」と、納得のコメント。このスコットのSF2本はいうまでもなく、それまでのSF映画の常識を覆した文字どおりエポックメイキングな作品。2本が公開されたあとのSF映画のビジュアルは、それまでとはまるで別物になってしまったからだ。
もしかしたら本作、その“境界線”をとっぱらった、『エイリアン』と『ブレードランナー』のハイブリットを目指しているのかもしれない!?そうなると、着地点がめちゃくちゃ気になりまくってしまうではありませんか!
文/渡辺麻紀