ナポリの街に経済効果10億円をもたらした『パルテノペ ナポリの宝石』。物語を彩る風光明媚な街並みをたどる
第86回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『グレート・ビューティー 追憶のローマ』(13)をはじめ、『The Hand of God -神の手が触れた日-』(21)など、圧倒的な映像美で“21世紀の映像の魔術師”と呼ばれるイタリアの巨匠、パオロ・ソレンティーノ監督の最新作『パルテノペ ナポリの宝石』が8月22日(金)より公開となる。
ナポリの街を意味する“パルテノペ”と名付けられた美しく聡明な主人公の人生と、古代神話と日常生活が溶け合う風光明媚なナポリを重ね、栄枯盛衰の二面性を色彩豊かに描きだす本作。舞台でもあり、物語のもう一つの主人公とも言えるナポリは、イタリアの中でも独自の文化が華開く街だ。この度、ナポリの街並みと海を存分に堪能できる優雅なカヌーシーンの映像が到着。さらに、魅惑的で贅沢な映像を作り上げるにあたってソレンティーノ監督が成した大胆な撮影秘話をお届けする。
『パルテノペ』がナポリにもたらした、総額10億円にも及ぶ経済効果!
イタリアの巨匠パオロ・ソレンティーノ監督は、このナポリの物語を撮影するにあたり、実際に街を約10週間もの期間、大胆にも閉鎖した。その際にナポリ市にもたらされた経済効果は実に600万ユーロ、その額日本円にしてなんと約10億円に及んだという。ナポリ市へのロケーション使用料の支払い、キャストとスタッフの宿泊施設、地元労働者への補償が含まれ、さらにゴミ収集、撮影の野次馬を規制する警備員、壁や列柱の落書きの除去といった費用なども負担したそう。
本作は、主にナポリとカプリ島を舞台に、主人公パルテノペ(セレステ・ダッラ・ポルタ)の1950年の誕生から現在までの長い生涯を映し出す。パルテノペという言葉が、華やかさと暗部を併せ持つナポリの街を象徴する通り、彼女は街の浮き沈みと呼応するような人生を辿る。ドイツの文豪ゲーテが「ナポリを見てから死ね」と言ったほど魅力的なナポリの街並みのなかで、賑やかなサン・カルロ通り、アウグストゥス庭園から眺める壮麗な景色、そして下町のエリア、スパッカナポリの強烈な個性など、歴史的な建造物の貴族的な優雅さから、街の路地に漂う荒々しく活気のある生活まで、様々な側面を映し出すロケ地を一挙紹介していこう。
ヴィラ・ラウロ(別名:ヴィラ・ロッカ・マティルデ)
予告編冒頭にも出てくる、パルテノペが生まれた家は、名付け親である“提督”のモデルとなった実在の人物、ナポリの実業家アキッレ・ラウロの邸宅、ヴィラ・ラウロ(別名:ヴィラ・ロッカ・マティルデ)。かつて船舶業で財を成し、ナポリ市長も務めたラウロの所有したこのナポリ湾をのぞむヴィラは、年月と共に朽ち果て、色あせた壮麗さと息を呑むような地中海の背景のコントラストは、ナポリの重層的な歴史と永遠の美しさを物語っているよう。
ガッレリア・ウンベルト、サン・カルロ通り
色鮮やかな衣装を身にまとった男女が優雅に行きかう印象的なスローモーションのシーンは、ガッレリア・ウンベルトとサン・カルロ通りで撮影された。19世紀後半に建てられたガッレリア・ウンベルトは近世ナポリのシンボル的存在のショッピング施設で、歴史、文化、商業が交差する壮大で活気のある空間。この施設につながる4つの門のうち、正門につながる通りがサン・カルロ通りで、過去と現在が調和して共存するナポリの多面的なアイデンティティが反映されている。ソレンティーノ監督は、文化、芸術、再生の象徴であるナポリの最も代表的なこの場所で、パルテノペの人生の始まりの予感と、戦争が終わった1950年代の街の新たなスタートを重ね、清々しい活気を表現した。
アウグストゥスの庭園
パルテノペの生涯において、特別で忘れることのできない夏の思い出を占めているカプリ島。島の永遠の美しさとパルテノぺたちの若々しい気ままさが融合するこの魅惑的な場所で、彼女の人生における重要な出来事が起こる。ポスタービジュアルにもなっており、パルテノペがバカンス中に出会う小説家、ジョン・チーヴァー(ゲイリー・オールドマン)が煙草を吸う場面の背景の場所は、カプリ島のアウグストゥス庭園。
古代ローマの皇帝アウグストゥスの別荘地だったことに由来して命名されたこの庭園からは、荒々しくそびえたつファラリオーニの岩礁を眺めることができる。自然豊かな壮大な景色をのぞむマヨルカ焼きの色鮮やかなベンチが配置され、贅沢な空間となっている。
フェデリコ2世大学(別名:ナポリ大学)
出会う人々を偏見なく受け入れ、人類学への情熱を絶やさない聡明なパルテノぺが生涯の師匠と出会う大学の舞台となったのは、フェデリコ2世大学(別名:ナポリ大学)。1224年に当時のローマ皇帝フリードリヒ2世(フェデリコ2世)によって創立された歴史あるこの大学は、街の教育の中心地であるだけでなく、ナポリの知的遺産の象徴でもある。本作の大学のシーンは、ネオバロック様式の建物の外観が映しだされ、アンティークの木製座席が備わった美しいホールや、ミネルヴァ像のある内部階段で撮影が行われた。
ナポリ大聖堂
人類学者として学問の道を歩み始めたパルテノペが司教に会いに訪れた教会は、ナポリで一番大きな教会であり中心的存在であるナポリ大聖堂。この大聖堂では、毎年9月19日に、ナポリの街を守る聖人サン・ジェンナーロの祝祭、“サン・ジェンローナの血の奇跡”という催しが執り行われることで有名。長い年月をかけて建てられ、幾度もの自然災害に見舞われたナポリ大聖堂は、改修を重ねてその時々の建築様式を反映している。現在の礼拝堂内は豪華で煌びやかなバロック装飾が施され、当時を代表する芸術家による作品が多く見られる。
聖と俗が混ざり合う矛盾を秘める個性豊かな司教に導かれて、パルテノペが身につけたナポリの守護聖人であるサン・ジェンナーロの聖遺物は、地下聖堂に保管されている。
スッパカナポリ
パルテノペは、ナポリのギャング“カモッラ”の男と出会い、ナポリの活気ある下町スパッカナポリへと案内される。スパッカナポリは「ナポリをまっぷたつに切る」という意味で、東から西へ一刀両断するような全長3㎞の一本道が通っている。通路の両側には多くの商店が構えられていたり、頭上には洗濯物が干されていたりと、ナポリ市民の庶民的な生活が垣間見える。
ナポリで最も古い歴史地区であるこの場所で、パルテノペは貧しい市井の人々の生活の場を垣間見るナポリの高級住宅街で育ち、街の美しさしか知らなかったパルテノペが、ナポリの新たな一面と対峙するシーンとなっている。
街全体が本作を応援!パルテノペの足跡をたどるボートツアーも
街の魅力を余すことなく描きだした本作の影響力は大きく、ナポリのロケツーリズムを活性化させている。ナポリ市は、本作のファンのために「ソレンティーノ・ツアー」と呼ばれるボートツアーを導入。パルテノぺが生まれ育つ高級住宅街、ポジリポ地区のヴィラ群は私用地のためアクセスすることはできないが、このボートツアーで海から眺めることができる。また、地元の土産屋には、映画のセリフや「I Love Sorrentino」のロゴが入ったTシャツやスマホケースが並んでいるという。街に多くの観光客をもたらしたソレンティーノ監督への市民の敬意と愛が垣間見える。
ナポリの歴史的景観や名所、市井の人々が住むローカルのエリアなど様々な場所を舞台にして、美しさと荒々しさの相反する街のあらゆる魅力や尽きることのないエネルギーを映しだしたソレンティーノ監督。監督が愛し愛されたナポリをぜひ劇場の大スクリーンにて堪能してほしい。
文/MOVIE WALKER PRESS編集部