「まるでこの物語のために書かれたんじゃないかと思うくらいマッチしていました」
さらに、BUMP OF CHICKEN好きのフクザワとして外せないのが、日本版エンドソングの「リボン」。2017年に発表された既存曲が、改めて起用された。「『リボン』がエンドソングに選ばれたというニュースを見た時から、めっちゃ合うなと思っていました」と長年のファンであるフクザワもお墨付きだ。
なぜこんなにもBUMP OF CHICKENの楽曲が『星つなぎのエリオ』にシンクロするのか。第一の理由が、宇宙という世界観だ。「BUMPはこれまで宇宙や星をモチーフにたくさん楽曲をつくってきました。『リボン』の中にも宇宙やUFOといったワードが出てくる。宇宙を舞台にした『星つなぎのエリオ』にはぴったりですよね」と熱弁をふるう。
第二の理由は、歌詞だ。「リボン」は「嵐の中ここまで来たんだ」というフレーズから始まる。『星つなぎのエリオ』もまた、エリオが宇宙を舞台に冒険を繰り広げる物語だ。この「リボン」とあわせて『星つなぎのエリオ』の映像を観ると、「いままで見ていたストーリーが一気に甦ってきて、泣くのをこらえるのに必死でした」と照れ笑いを浮かべる。
「ほかの歌詞も、『星つなぎのエリオ』のことを歌っているみたいだなって」とフクザワ。エリオと叔母のオルガは、スペースデブリの嵐をくぐり抜け、“コミュニバース”を目指す。絶体絶命のピンチを救ったのは、見えない人と人との“つながり”だった。「映画ができる前に作られた曲なのに、まるでこの物語のために書かれたんじゃないかと思うくらいマッチしていました」とフクザワも感動の声を上げる。作品世界と歌詞の相似性が、「リボン」がこの物語の締めくくりを飾るにふさわしい楽曲であることを証明している。
そして最大の理由は、BUMP OF CHICKENというバンドが、デビューから一貫して人の寂しさに寄り添う楽曲を紡ぎ続けてきたアーティストであるという点だ。『星つなぎのエリオ』もまた両親を失い、心を許せる人がいなくなったエリオの寂しさから物語が始まる。けれど、不思議な大冒険を経てエリオは気づく、例え孤独を感じる瞬間があっても、自分は決して一人ではないのだということに。世界を信じられなくなった人を優しく抱き止めるぬくもりが、『星つなぎのエリオ』とBUMP OF CHICKENの共通点だ。
「きっとエリオが『リボン』を聴いたら、勇気をもらえるんじゃないかな」。フクザワが語るのには理由がある。なぜなら、フクザワもまたBUMP OF CHICKENの楽曲に心を救われた一人だからだ。学校に馴染めず、友達がいなかったフクザワは、BUMP OF CHICKENの楽曲に出会い、勇気をもらった。そして、BUMP OF CHICKENの音楽を絵で表現したいと思うようになった。絵を描く時間だけは、孤独を忘れることができた。
けれど、その絵もまた万人に理解されるものではなかったという。「周りで絵を描いている人はいたけど、そのほとんどが漫画をもとにしたもので、私みたいにBUMPが好きで、BUMPを絵にしている人はいなかった。だから、自分の描いてる絵をほかの人に見せるなんてできませんでした」。親も絵や音楽に一切関心がなかった。「自分を理解してもらえている感じはまったくなかった」と10代の日々を思い返す。
どこにも自分の居場所なんてない。そう感じていたフクザワが飛び込んだのは、インターネットという「宇宙」だった。掲示板を通して、同じBUMP OF CHICKENを愛する者同士、交流を深め、自作の絵を見せては感想をもらった。そこは、孤独だったフクザワが、初めてありのままの自分らしさを受け止めてもらえた場所だった。「いまでもその当時知り合ったネット上の友達とはつながっていて、私の個展を見に来てくれたりしています。“つながり”ができたことで、10代の私は救われました」。
そんなフクザワだからこそ、「エリオの気持ちがよくわかる」と力説。「エリオだった時期が私にもあったんだなって、映画を観て思い出しました」と過去の自分とエリオを重ね合わせる。同時に、大人になったいまだからこそ、親代わりとなる叔母のオルガにも共感できるようになったという。「むしろ最初はオルガの視点でずっと観ていて。こんなにもオルガはエリオのことを大切に思っているのに、エリオは気づかない。なんてわからず屋なんだってエリオにイライラしていました」と苦笑い。「でも、そうやってイライラしていたのは、きっと自分自身がエリオだった時代があったからなんでしょうね」といとおしそうに目を細める。
「エリオを通して、子どものころの私に出会い直すことができました」とフクザワはうれしそうにかみしめる。きっとかつての自分に出会い直すことができるのは、フクザワだけではないだろう。多くの人が、子どものころは自分のことしか見えなくて、そばにある愛情に気づくことができなかった。これは、エリオの成長物語であると同時に、あなた自身の物語でもあるのだ。
「SFチックな設定なので、きっと入り口としては自分とは違う世界のお話としてご覧になると思います。でもそれが観終わるころには、自分の物語になっている。そこが『星つなぎのエリオ』の魅力じゃないかなと思います」。
ちょっと自分の人生に疲れていたり、周りからはぐれてしまったような気持ちになっている人こそ、この映画を観てほしい。スクリーンいっぱいに広がるエリオの大冒険が、孤独なあなたとの心を結ぶリボンとなってくれるはずだ。
取材・文/横川良明