フィリッポウ兄弟の2作目『Bring Her Back』ほか台湾で観た最新ホラー7本最速レビュー!
7月下旬に台湾出張に行った際に、7本の最新ホラー映画を映画館で鑑賞してきた。台湾はハリウッド映画が本国よりも数日早く公開されるだけでなく、タイやベトナム、韓国といったアジアの作品も含めホラー人気が高い国であり、ホラー映画ファンには嬉しい環境なのだ。
まず鑑賞したのが、台湾の『Haunted Mountains: The Yellow Taboo』。ある森の中で遭難した時、黄色いレインコートを着た謎の人物に遭遇すると恐ろしい山道に導かれる、という都市伝説をベースにしたホラー映画。薄暗い不気味な森の中から逃れられない、訳ありカップルたちの末路を描いたタイムループものの幽霊ホラーという組み合わせが興味深い。本国ではスマッシュヒットを記録。台湾の人気俳優ジャスパー・リウ(「私、結婚してます…でも!」「運命のイタズラ〜私たちは友達になれない」)と、香港を代表する人気女優アンジェラ・ユン(『星くずの片隅で』『離れていても』)が主演。
A24の長編デビュー作『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』(22)で華々しいデビューを飾ったフィリッポウ兄弟の2作目『Bring Her Back』も鑑賞。突如、父親を失った17歳の少年と妹はエキセントリックな養母と暮らし始めるが、彼女には恐ろしい秘密が隠されていた。前半は緊迫感がありつつもスロウな展開が続き、そこは評価が分かれるところだが、ショッキングでユニークなゴア描写はインパクトが強く、『ヘレディタリー 継承』(18)を彷彿とさせつつも時折『マーターズ』(08)に近いものを感じたエクストリームなトラウマホラー。主演サリー・ホーキンスも光るが、不気味な子供を演じたジョナ・レン・フィリップスのワイルドな体当たり演技に目が釘付けに。
『I Know What You Did Last Summer』は、『スクリーム』シリーズ同様、90年代にヒットした『ラストサマー』シリーズの27年ぶりの3作目。路上で悪ふざけをしていた結果、男を自動車事故死に追いやってしまった若者たちが鉤爪殺人鬼に狙われる、という過去のシリーズを踏襲したストーリー。オリジナル・キャストのうち、ライアン・フィリップを除く3名が再登板(サラ・ミシェル・ゲラーはカメオ的に夢のシーンで登場)するが、新たなキャストたちが魅力に欠けるのが気になった。ラストのツイストもシリーズを終焉に追い込んでもおかしくないような大胆なもので、凄いことをするなと唖然とした。エンドクレジットで続編への伏線が張られているが、果たして無事回収される日が来るのだろうか。
日本では劇場公開が中止になってしまった『M3GAN ミーガン2.0』は、ミーガンの技術を悪用し軍事兵器として生み出されたAIロボット、エミリアが人類の未来を脅かす大暴走を始める。ジェマ、ケイディ、ミーガンらは彼女を止められることができるのか?! 前作よりスケールアップしたこの続編は、ホラー的な瞬間がありつつも、それ以上にSFアクションスリラーとしてのテイストが濃厚。2時間という長めの尺を埋めるためのツイストに次ぐツイストもあまり効果的ではなく、ストーリーはごてごてしていて、そのわりにクライマックスが盛り上がるわけでもなく。ロボット同士のアクロバティックでバイオレントな対決など見どころも多いが、思わぬ方向に突き進みすぎた感は否めなかった。
『Tomb Watcher』はタイのホラー。裕福な妻を失った夫が愛人と一緒に暮らし始めるが、妻の遺言には、彼女の莫大な財産を受け取るためには死後100日間妻の墓を守ること、と書かれていた。亡き妻の亡骸と共に豪華な一軒家で暮らすカップルは、彼女の霊に襲われるようになる…。昼夜関係なく登場する黒髪の女幽霊はJホラーの幽霊を彷彿とさせるが、時に腕がどす黒かったり、顔がノルウェイのブラックメタル・バンドのメンバーのように真っ白だったり、意外なアクセントを加味している。一軒家というほぼワン・シチュエイションのホラーだが、虚無的なラストは唐突ながら意外と悪くない。
韓国の『My Daughter is a Zombie』は、チョ・ジョンソク主演のウェブトゥーンをベースにしたゾンビコメディ。ゾンビ・ウィルスに感染したダンス好きの高校生の娘を守るために奮闘する父親の姿を追った、韓国映画らしい「家族の絆」を描いたドラマティックな作品だが、ゾンビ映画としては生粋のホラーファンやゾンビ映画ファンには積極的にはオススメできない作品。コミカルな演技が天才的なチョ・ジョンソクの一挙手一投足を追う分には満足度が高い。チョ・ヨジョン、イ・ジョンウン共演。本国ではすでに入場観客者数が450万人を突破、大ヒットを記録している。
最後に、今年のサンダンス映画祭でワールドプレミア上映され話題を呼んだ『The UglyStepsister』は、今回観た中で一番印象に残ったホラー。「シンデレラ」を再解釈したノルウェー他合作の本作は、やや醜悪なルックスの主人公が舞踏会で王子様の気を引くため、美しい義姉に対抗し、大変原始的で苦痛を伴う美容整形でルックスを変容させる文字通りの「ボディ・ホラー」なシーンにまず驚嘆。シンデレラの靴に足をフィットさせるために取る最後の手段(馬鹿げていて大変滑稽)な痛々しいゴア描写もそうだが、馬小屋でのダイレクトで露悪的なセックスシーンなど意表を突くビジュアルにも唸らされた、キッチュでブラックユーモアも満載のセンスが光る快作だ。
今年の暑い夏もホラー映画がすこぶる元気なことを確認できた、台湾での2週間だった。
小林真里