広瀬すず、『遠い山なみの光』で“夫”松下洸平のネクタイ結びに苦戦!松下は「一気に和みました」と笑顔
カズオ・イシグロの長編デビュー作を石川慶監督が映画化した『遠い山なみの光』(9月5日公開)の完成披露舞台挨拶が8月7日にイイノホールで行われ、広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、松下洸平、三浦友和、石川監督が出席した。
カズオ・イシグロが自身の出生地である長崎を舞台とした本作は、戦後間もない1950年代の長崎、そして1980年代のイギリスという、時代と場所を超えて交錯する“記憶”の秘密をひも解いていくヒューマンミステリー。『ある男』(22)で第46回⽇本アカデミー賞最優秀作品賞を含む最多8部⾨受賞という快挙を達成した、石川監督がメガホンを取った。石川監督は「5年前のいまぐらいの時期に企画をして、やっとここまで来た。こんなにすばらしいキャストの皆さんに集まってもらって、こんなに大きな映画に育った」と感無量の面持ちを見せていた。
1950年代、長崎時代の悦子を演じた広瀬は、「ずっしりと受け止めるものがたくさんありました」と完成作を観た感想を吐露。緒方役を演じた三浦は「昨日が広島の原爆投下の日。明後日が、長崎の原爆投下の日。それを心に留め置きながら観ていただくと、また違った見方ができるかもしれません」と呼びかけた。悦子が長崎で出会った不思議な女性、佐知子役の二階堂は「キャラクター性を深く考えていくことも大切にしていたんですが、三浦さんもおっしゃっているように広島、長崎の原爆の投下であったり、戦争の体験者の方々が、戦後にどのような想いで暮らしていたのか。どのような人生を歩んでいったのかという、当事者性を大切にしたいなと思っていた」と役作りについて明かした。
広瀬は、「すごく力強くて。佐知子さんを通して、潔い目を感じた。悦子がこういうふうに受け止めて、こういうふうな景色がいま見えているんだなと実感しながら演じさせていただけた」と二階堂の芝居からたくさんのものを受け取ったという。「ご一緒できてうれしかったです」と感謝すると、二階堂は「ありがとうございます。お恥ずかしい」と照れ笑い。「脚本を読んでいた時も、広瀬さんがどのように悦子さんを演じられるのかなと思っていた。お芝居をご一緒させていただきながら、しなやかさと静かな強さみたいなものがあった」と印象を口にしつつ、「座長として、頼れる瞬間がたくさんあった。すごく頼れる存在だなと思っていました」と称えた。「いちファン」だという石川監督は、「お二人が同じフレームに映っているだけで、ワクワクした」と改めて広瀬と二階堂の共演を喜んでいた。
1980年代のイギリスで暮らす悦子を演じた吉田は、「イギリスの撮影では、監督も英語で演出をした」と撮影を回想。「現場も全員、英語でコミュニケーションを取っていた。もちろんお芝居以外で言葉を聞き取る大変さはありましたが、その英語を浴びる環境は悦子が過ごしている環境でもあったので、まさにこんな感じかなと思っていました」と役柄と重ね合わせながら過ごし、「セリフに関しては母国語ではないというもどかしさももちろんありましたが、そのおかげでお芝居において打算的なことを考えずに済んだ。役者としてはすごく幸せな時間でした」と貴重な経験になったと語っていた。
第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、熱いスタンディングオベーションを浴びたことでも話題となった本作。広瀬、吉田、三浦、石川監督らと共に現地入りした松下は、「エンドロールが始まった瞬間、スタンディングオベーションで。皆さんが立って拍手をしてくださった時に、本当に感極まって。泣く一歩手前で、パッと皆さんを見たら、スッと凛々しいお顔でその拍手を受けていらっしゃった。僕一人で泣いている場合ではないなと思って、グッとこらえた」と振り返り、「皆さんの真似をして、ここは凛々しくいなければいけないんだ!と思った顔をしています」と笑顔を見せた。三浦の声がけにより食事も楽しんだそうで、三浦は「年配が声をかけないと、みんなが来てくれないので。自分から誘うんです」と話して、周囲を笑わせていた。
劇中で松下は、長崎時代の悦子の夫である二郎役を演じた。ステージでは、夫婦役を演じた感想を尋ねられた広瀬と松下。「ネクタイを結ぶシーンがあって」と切りだした広瀬は、「結んだことがなくて。何回も練習させていただいた。悦子さんが(夫の)身の回りのことを準備したり、お手伝いをするという描写だったんですが、本番にこんなに短いネクタイになっちゃって」と松下のネクタイを結ぶのに大苦戦したという。
松下は「びっくりしましたね」とほほ笑み、「こういったテーマですから、現場もいい意味での緊張感がずっと漂っていたなかでその日も撮影していた。それが一気に和みましたね」と癒された様子。「なんでも器用にこなされる方ですし、料理を作るシーンでも、料理監修の先生の吹替なしでご本人がやられている。僕は、広瀬さんが現場でセリフを確認している姿を1回も見たことがないし、常にドシっと構えている広瀬さんの出立ちしか見られなかった。でもネクタイができないんだと思って」と広瀬の意外な一面を見られたと語り、広瀬と会場の笑いを誘っていた。
最後に石川監督は、「いろいろな見方ができる映画。皆さんの見方が正解です」と観客に映画を託し、広瀬は「この作品を通して、人の幸せだったり、平和を願うことだったり、きっと人それぞれが見ている方向性も違うんだろうなと(感じた)。そのなかで強く生きた女性たちの姿を、大きなスクリーンで多くの方に観ていただける日をとても楽しみにしていました。楽しんでもらえたらうれしいです」とメッセージを送り、大きな拍手を浴びていた。
取材・文/成田おり枝