なぜ“バレリーナ”が「ジョン・ウィック」ワールドに採用されたのか?シリーズに新風を呼んだ若き才能の存在
キアヌ・リーブス主演の人気シリーズ「ジョン・ウィック」のスピンオフにして、アナ・デ・アルマスを主演に迎えたシリーズ最新作『バレリーナ:The World of John Wick』が8月22日(金)より公開される。“バレエ”という一見異色とも思えるモチーフを、なぜ採用したのか?このたび、その秘密を解き明かす製作秘話コメントが到着。そこには、シリーズの“創造神”による意外なインスピレーションと、シリーズを刷新する若き天才脚本家の存在があった。
リーブスが体現する切れ味鋭いアクションに全世界が熱狂し、シリーズを追うごとに、そのスケールと世界興収を更新し続け、一大ヒット作となった「ジョン・ウィック」シリーズ。『バレリーナ:The World of John Wick』(以下、『バレリーナ』)は、シリーズ第3作となる『ジョン・ウィック:パラベラム』(19)(以下、『パラベラム』)とクロスオーバーした時系列で描かれる。“伝説の殺し屋”ジョン・ウィックが築いたスタイリッシュで独自の世界観はそのままに、映画史を変えた過剰ともいえる超絶アクションはパワーアップ。広がり続ける「ジョン・ウィック」ワールドに新たな血を注ぐ“復讐の女神”誕生の物語が描かれる。
舞台は、バレリーナと暗殺者を育成する犯罪組ルスカ・ロマ。 本作の構想は、「ジョン・ウィック」シリーズ4作品すべてで監督を務め、『バレリーナ』では製作にまわったチャド・スタエルスキと、ある脚本草稿との出会いから始まった。
その脚本を読んだ瞬間、主人公ジョン・ウィックとは離れたところでも「ジョン・ウィック」ワールドが存在し得るのではないかと考え始めたというスタエルスキは、当時をこう振り返る。「ちょうど『パラベラム』を撮影しているころでした。当時私はバレエにハマっていて、ジョン・ウィックを育てたルスカ・ロマの場面にバレリーナのシークエンスを入れようとしていたんです。そんな時に(シェイ・)ハッテンの脚本を読んで、“この世界にぴったりだ”と直感しました」。
“バレエ”というユニークな新要素は、実はスタエルスキ自身の私的な趣味から着想を得たものだった。だが、それを単なる思いつきで終わらせなかったのは、脚本が持つ豊かな世界観と語り口の力にほかならない。この脚本の作者こそ、当時わずか25歳だった若き脚本家シェイ・ハッテン。スタエルスキに見い出されたあと、第3作『パラベラム』や第4作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(23)(以下、『コンセクエンス』)にも参加。シリーズの世界観そのものに深く関与してきた彼が、シリーズ初の女性主人公となるイヴの物語を既存の作品と地続きにしつつ、まったく新しい角度から描きだした。
物語の時間軸は『パラベラム』と『コンセクエンス』の間。本作は、父を何者かに殺された少女イヴが、バレエ団兼暗殺者養成機関であるルスカ・ロマで暗殺者として育てられ、やがて復讐の道を歩み始める物語。何者でもなかった少女が成長し、父親の仇を突き止めて復讐に挑む姿は、これまでのジョン・ウィックの視点で描かれてきた物語とは異なる緊張感と感情の深みをもたらす。
ハッテンは、本シリーズの『パラベラム』『コンセクエンス』では共同で脚本を手掛け、Netflixの話題作「REBEL MOON」シリーズや『アーミー・オブ・ザ・デッド』(21)、『デイ・シフト』(22)、テレビドラマシリーズ「ラストサマー」など話題作を次々と執筆、2019 年にヴァラエティ誌の「注目の脚本家トップ 10」にも選ばれた注目株だ。大胆で奇抜な発想と深い人間ドラマを両立させるスタイルで、次世代ハリウッドを牽引する気鋭の脚本家としてその勢いはとどまるところを知らない。
ハッテンのような新たな才能との出会いが、本作にこれまでのシリーズにはなかった空気を吹き込んだのは間違いない。“バレエ”が生む優雅さと、復讐に燃える主人公の激情が織り成す本作は、シリーズファンはもちろん、初めてこの世界に触れる観客にとっても鮮烈な体験となるはずだ。
文/山崎伸子