「恐怖心展」の内部を詳細レポート。梨と近藤亮太が語る、虚構を通して出会う自らの“恐怖心”

「恐怖心展」の内部を詳細レポート。梨と近藤亮太が語る、虚構を通して出会う自らの“恐怖心”

「見せたいのは、『怖いものがあるかもしれない』と気付き始める恐怖」(近藤)

オブジェクトとして展示されているもの以外に、いくつかの“恐怖心”にはそれに付随した映像が小さなモニターで流されている。これらの映像を手掛けた近藤といえば、「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞し、長編映画監督デビュー作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(Prime Videoにて配信中)がヒットを記録。最新作『〇〇式』も公開中である“Jホラーの申し子”だ。前回の「行方不明展」でも、“5つ目の展示物”となる特別映像「正体不明」を手掛けていた。

「露悪的な方法では意味がない」という梨の言葉通り、もっともポピュラーな高所恐怖症の表現は控えめなものに
「露悪的な方法では意味がない」という梨の言葉通り、もっともポピュラーな高所恐怖症の表現は控えめなものに

今回、企画段階から数えると3か月前後の短期間で10本もの短い映像を手掛けたという近藤。「『行方不明展』の時にはムードを重視していたため、長めの映像展示も多かったと思います。ですが今回は、一本をじっくり観ないと取りこぼしてしまうものではなく、この人はこういう恐怖心を持っているのだと伝わることが大事で、短い尺のなかに恐怖心が表出していればいいというイメージで制作していきました」と語る。

「恐怖心というものは、恐怖そのものではない」という梨の言葉にもあったように、今回近藤が手掛けた映像作品も明確に“恐怖”を提示するものではない。「ホラー映画のメインストリームにあるのは、自分の身にも恐怖が迫ることを追体験する怖さだと思います。ですが『恐怖心展』で見せたいのは、『自分にも同じように怖いものがあるのかもしれない』と気付き始めることの恐怖です」と語る近藤は、「展示だからすんなり飲み込んでもらえるかもしれませんが、これを映画でやったら『全然怖くない』と言われてしまうかもしれませんね」と笑う。

ポツンと置かれた電話機。いったいなんの“恐怖心”をあらわしているのか
ポツンと置かれた電話機。いったいなんの“恐怖心”をあらわしているのか

「でも自分がやりたいと思っている恐怖表現は、限りなくこの『恐怖心展』に近いものだと思っています。だからこそ、映像を作っている時にはさまざまな発見がありました。ここで培ったものを映画のほうにもフィードバックしていきたいですね」と明かす。そんな近藤が特に自信をのぞかせるのは、比較的序盤に観ることができる“人形恐怖症”の映像。「これは、自分が現在できる最高のものが撮れたのではないかという手応えがありました」と語る通り、背筋をゾッと冷たいものが走るような不気味さを感じられる映像に仕上がっている。

「日本人の原体験と結びつくものに」(梨)

順路を進んでいくと、少し狭くなった通路を何枚かの畳が塞いでいた。“汚れに対する恐怖心”とキャプションが添えられているように、黒ずんだシミや土埃で畳の表面は痛みきっている。「フォビアというものは、文化依存症候群という呼ばれかたもしていて、どういう国や文化のもとで生まれ育ったのかに依存するという話もあります」と梨は説明する。


突如現れる畳。ここを土足で踏み越えなければ、先には進めない
突如現れる畳。ここを土足で踏み越えなければ、先には進めない

「この畳は、“汚れ”というものに対しての恐怖心を表現するものとしてだけでなく、来場される方の多くを占める日本人の方々の原体験と結びつくものにしようというねらいがあります。日本人は畳に土足で上がることにタブーを感じるものです。だからこそ、あえて順路のなかに組み込み、踏み越えていかなければ先に進めない作りにしているのです」。

会場内にはほかにも、割れた鏡が敷き詰められたステージの上に乗ることができる体感型の展示など、オブジェクトや映像を観たり聴いたりするだけではない、五感に働きかける仕掛けがいくつも織り交ぜられている。「存在」から始まり、「社会」「空間」「概念」と、徐々に“恐怖心”が物質的なものではなくなっていった末にたどり着く最後のエリア。詳細は伏せるが、そこで来場者は、“恐怖心”の深層に触れることができることだろう。

展示物自体が読み物となっているものも
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