「恐怖心展」の内部を詳細レポート。梨と近藤亮太が語る、虚構を通して出会う自らの“恐怖心”

「恐怖心展」の内部を詳細レポート。梨と近藤亮太が語る、虚構を通して出会う自らの“恐怖心”

現在進行形で変化を続ける街・渋谷。真夏の熱気がただよう喧騒のセンター街を抜けた先にたたずむ、サブカルチャービルのエレベーターを4階まで上がると、一瞬にしてどこか肌寒い空気に包まれた。顔の部分を黒い大きな●で潰された人々の写真が並ぶ薄暗い廊下。そこを抜けると待っているのが、人の心の奥底に眠る“恐怖心”を可視化し、それと向き合う機会を与えるという展覧会「恐怖心展」(8月31日まで開催中)の会場だった。

【写真を見る】「恐怖心展」の全貌をくまなくレポート。会場で出会う自らの“恐怖心”とは?
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「※展示物はフィクションです」と前置きされた「恐怖心展」。それは、昨年夏に東京・日本橋で開かれ大きな反響を巻き起こした「行方不明展」にも添えられていた文言。そう、この「恐怖心展」は、ホラー作家の梨と株式会社闇、そして「イシナガキクエを探しています」や「飯沼一家に謝罪します」といった「TXQ FICTION」の仕掛け人であるテレビ東京の大森時生プロデューサーという「行方不明展」を手掛けたチームが再集結した新作展示となっている。

PRESS HORRORは、その会期前にマスコミ・関係者向けに行われた内覧会を取材。展示内容の選定から展示物のテキストまで手掛けた梨と、映像展示を担当した映画監督の近藤亮太の2人へのインタビューと共に、“フィクション(=虚構)”を通して“リアル(=現実)”の恐怖心と直面する会場内の様子を詳細にレポートしていこう。

「“恐怖心”というものは恐怖そのものではない」(梨)

最初のセクションは、「存在」に対する恐怖心
最初のセクションは、「存在」に対する恐怖心

会場内は大きく4つの“対象”に分類されている。順に、「存在」に対する恐怖心、「社会」に対する恐怖心、「空間」に対する恐怖心、そして「概念」に対する恐怖心。最初のパートで展示されているのは、いわゆる有形物に対して向けられた恐怖。“先端恐怖症”や“集合体恐怖症”など、誰もが一度は耳にしたことがあるはずだ。

主にインターネットを中心に活動してきたホラー作家の梨は、2022年に「かわいそ笑」で書籍デビュー。近年は「お前の死因にとびきりの恐怖を」「ここにひとつの□(はこ)がある」「禍話n」などの単著を発表する一方、漫画原作や展覧会なども手掛け、文筆だけにとどまらない幅広い活動を続けている。

梨は「最初に私と大森さんで話し合いを重ね、世の中に存在する恐怖心や恐怖症、すなわち“フォビア”と呼ばれるものを調べあげていきました」と振り返る。“〇〇恐怖症”や“〇〇フォビア”といったように言語化されているものだけでも600以上あり、そのなかから「日本で生活する我々にとって馴染みがあるかどうか」「どういうところに共感性があるのか」を基準にして、展示する恐怖心を選定していったという。

恐怖を感じる人もいれば、そうでない人もいる。さまざまなモノの具体が並ぶ
恐怖を感じる人もいれば、そうでない人もいる。さまざまなモノの具体が並ぶ

“先端恐怖症”こそ、刃物やペンなど先の尖ったものを鑑賞者に突きつけるように向ける直接的な見せ方がされているが、「これは“恐怖展”ではなく“恐怖心展”。恐怖心というものは恐怖そのものではないので、過度に露悪的な方法で怖がらせるような手っ取り早いものでは意味がないんです」と梨は説明する。「本当は怖くないかもしれないけれど、そこからなにかを予期する“予期不安”というのでしょうか。怖がる心の動きを見ることが、この展示の重要なポイントでした」。

たしかに、筆者自身も恐怖を感じるものから、恐怖までいかなくても妙に嫌な気分を味わってしまうものや、怖いとは思えないが誰かがそれを怖がることは理解できるもの、一方で、なぜこれが恐怖の対象になるのかさえ理解できないものまでさまざまな“恐怖心”が並んでいる。梨の言葉から解釈すれば、これらの展示物を見てただ自己完結するのではなく、展示物を観賞するほかの来場者の反応を見ることもまた、この「恐怖心展」の楽しみかたなのかもしれない。

会場の片隅に置かれたヘッドフォン。聴覚を刺激する展示も
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