『密偵』『お嬢さん』…『ハルビン』に続く、“不遇の時代”に生きた人々の歴史と痛みに触れる韓国映画5選

コラム

『密偵』『お嬢さん』…『ハルビン』に続く、“不遇の時代”に生きた人々の歴史と痛みに触れる韓国映画5選

日本統治時代を生きた大韓帝国皇女の過酷な生涯に迫る『ラスト・プリンセス −大韓帝国最後の皇女−』

日本の支配下にあった大韓帝国初代皇帝、高宗の娘として1912年に生まれた徳恵翁主の運命を、『八月のクリスマス』(98)、『満ち足りた家族』(24)のホ・ジノ監督が映画化したのが『ラスト・プリンセス −大韓帝国最後の皇女−』(16)。1920年代から1960年代にかけて日本で過ごした徳恵翁主の過酷な生涯に、密やかなラブストーリーとスリリングな逃亡劇の要素を加味し、ダイナミックな歴史ドラマとして完成させた。

日本の支配下にあった大韓帝国初代皇帝、高宗の娘である徳恵翁主の運命を描く『ラスト・プリンセス −大韓帝国最後の皇女−』
日本の支配下にあった大韓帝国初代皇帝、高宗の娘である徳恵翁主の運命を描く『ラスト・プリンセス −大韓帝国最後の皇女−』[c]Everett Collection/AFLO

主演は『四月の雪』(05)以来、11年ぶりにホ・ジノ監督と組んだソン・イェジン。絶望のなかでも威厳を失わず、同胞のために尽くした女性を、魂を込めた演技で見せている。『別れる決心』(22)のパク・ヘイルが、彼女を支える軍人ジャンハンの若き日と30年後の姿を静かに力強く演じている。

ソン・イェジンが絶望のなかでも威厳を失わず、同胞のために尽くした女性を魂を込めた演技で見せる(『ラスト・プリンセス −大韓帝国最後の皇女−』)
ソン・イェジンが絶望のなかでも威厳を失わず、同胞のために尽くした女性を魂を込めた演技で見せる(『ラスト・プリンセス −大韓帝国最後の皇女−』)[c]Everett Collection/AFLO

朝鮮語の使用を禁じられた人々が言葉を守るために命を懸けて辞書作りに打ち込む『マルモイ ことばあつめ』

韓国現代史の転換点となった光州事件を運転手の視点から見せた『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(17)で脚本を手掛けたオム・ユナが監督デビューを果たした『マルモイ ことばあつめ』(19)。日本語を強要され、母語である朝鮮語の使用を禁じられていた人々が、言葉を守るために命を懸けて辞書作りに打ち込む姿を描く。

日本語を強要され、朝鮮語の使用を禁じられていた人々が言葉を守るために命を懸けて辞書作りに打ち込む『マルモイ ことばあつめ』
日本語を強要され、朝鮮語の使用を禁じられていた人々が言葉を守るために命を懸けて辞書作りに打ち込む『マルモイ ことばあつめ』[c]2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

1940年代の京城(現在のソウル)を舞台に、手段を選ばずに生きてきた男キム・パンスが、ひょんな縁から朝鮮語学会が行っている辞書作りの手伝いをすることになる。当局の弾圧を受けながらもつづり字の統一や朝鮮語辞典編纂といった事業を続けた朝鮮語学会の活動を平凡な人物の視点から追う。主演は『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』でも庶民を代表する人物として登場したユ・へジン。

手段を選ばずに生きてきたキム・パンスがひょんな縁から辞書作りの手伝いをすることに(『マルモイ ことばあつめ』)
手段を選ばずに生きてきたキム・パンスがひょんな縁から辞書作りの手伝いをすることに(『マルモイ ことばあつめ』)[c]2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

名作ミステリー「荊の城」を日本統治下の朝鮮に舞台を置き換えて映画化した『お嬢さん』

韓国だけでなく海外でも精力的に創作活動を続けているパク・チャヌク監督が、イギリスの小説家サラ・ウォーターズのミステリー小説「荊の城」を大胆に翻案したのが『お嬢さん』(16)。舞台を1860年代のイギリスから1930年代、日本の支配下にあった朝鮮へと変更。盗賊団のなかで育った女性スッキが、“藤原伯爵”を名乗る詐欺師からある“仕事”を頼まれ、莫大な財産を相続予定の華族令嬢、秀子の住む屋敷へとやって来る。

詐欺集団のなかで育ったスッキが莫大な財産を相続予定の華族令嬢に近づく『お嬢さん』
詐欺集団のなかで育ったスッキが莫大な財産を相続予定の華族令嬢に近づく『お嬢さん』[c]Everett Collection/AFLO

「使用人の視点」で語られた出来事(第1部)を「お嬢様の視点」から語り直す(第2部)という原作の構成を生かしつつ、登場人物たちのエキセントリックな造形、和風テイストをベースに凝りに凝った美術や衣装など、チャヌク的な要素をたっぷり盛り込み、企みと愛がスリリングに交錯する、エロチックで爽快な世界を作り上げた。ホン・サンス監督作品でおなじみのキム・ミニが秀子の二面性を魅惑的に表現。本作での鮮烈な演技で注目され、いまや堂々たる主演俳優となったキム・テリがエネルギーあふれるスッキを生き生きと演じている。

「使用人」と「お嬢様」それぞれの視点で物語が展開される(『お嬢さん』)
「使用人」と「お嬢様」それぞれの視点で物語が展開される(『お嬢さん』)[c]Everett Collection/AFLO


ハルビン』公開にあわせて来日し、「こういった悲劇が二度と起きてはいけないということを伝えたい」と語ったウ・ミンホ監督。痛みの歴史をエンタテインメントに昇華したそれぞれの監督の思いを感じながら、作品を楽しんでみてほしい。

文/佐藤結

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