『密偵』『お嬢さん』…『ハルビン』に続く、“不遇の時代”に生きた人々の歴史と痛みに触れる韓国映画5選

コラム

『密偵』『お嬢さん』…『ハルビン』に続く、“不遇の時代”に生きた人々の歴史と痛みに触れる韓国映画5選

日本でも多くのファンを持つ俳優ヒョンビンが、高名な歴史上の人物を演じた『ハルビン』が公開中だ。この作品は、中国大陸での利権を広げようとしていた日本が、朝鮮半島への支配を強めていた時期が舞台。自らの信念にしたがって運命に抗おうとする人々の姿を壮大なスケールの映像で見せている。

ヒョンビンが実在の独立運動家アン・ジュングン(安重根)を内省的に演じる(『ハルビン』)
ヒョンビンが実在の独立運動家アン・ジュングン(安重根)を内省的に演じる(『ハルビン』)[c]2024 CJ ENM Co., Ltd., HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED

かつて韓国では、『ハルビン』で描かれた時代に続く、日本による植民地時代(1910~1945年)を舞台にした映画は「ヒットしない」と言われてきたが、2015年にチョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ、ハ・ジョンウらオールスターキャストが派手なアクションを繰り広げた『暗殺』が大ヒットしたことで状況が一転。以後、様々なタイプの観応えある作品が作られてきた。代表的なものを紹介していきたい。

日本による植民地時代を舞台にした映画はヒットしないという定説を覆した『暗殺』
日本による植民地時代を舞台にした映画はヒットしないという定説を覆した『暗殺』[c]Everett Collection/AFLO

伊藤博文暗殺に至る独立運動家アン・ジュングンの葛藤に迫る『ハルビン』

実際に起きた暗殺事件に至る人間模様を抑制したタッチで映像化した『ハルビン』。韓国社会の裏側を生々しく見せた『インサイダーズ/内部者たち』(15)や朴正煕(パク・チョンヒ)大統領暗殺に関わった人物たちに迫った『KCIA 南山の部長たち』(19)のウ・ミンホ監督が、『パラサイト 半地下の家族』(19)の撮影監督ホン・ギョンピョと共に「絶対に劇場で観てほしい」という想いを込めて完成させた渾身の一作だ。

祖国奪還のために強い絆で結ばれた同志たち(『ハルビン』)
祖国奪還のために強い絆で結ばれた同志たち(『ハルビン』)[c]2024 CJ ENM Co., Ltd., HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED

主人公は実在の独立運動家アン・ジュングン(安重根)。裕福な家に生まれた彼が、故郷を離れて大韓義軍の一員となり、同志たちとの間で葛藤を抱えつつ、「日本の政治家、伊藤博文を討つ」という目標に邁進していく姿を描く。寡黙でストイックなアン・ジュングンを内省的に演じるヒョンビンのほか、『密輸 1970』(23)のパク・ジョンミン、ドラマ「殺し屋たちの店」のイ・ドンウクといった実力ある俳優たちがそろって出演。さらに、韓国でも人気の高いリリー・フランキーが伊藤博文役で登場している。

伊藤博文を追って大連行きの列車に乗り込むが…(『ハルビン』)
伊藤博文を追って大連行きの列車に乗り込むが…(『ハルビン』)[c]2024 CJ ENM Co., Ltd., HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED

日本警察に所属する朝鮮人警官が任務と同胞への想いの間で揺れ動く『密偵』

1909年に起きた歴史的事件を基にした『ハルビン』から約10年後の1920年代初めを舞台に、祖国独立を目指して破壊活動を目論む集団、義烈団のメンバーたちと、彼らに接近する朝鮮人警官との駆け引きを描いたのが『密偵』(16)。こちらも実際の事件をモチーフに、腹の底に真意を隠した男たちの命懸けの攻防をスリリングに見せている。

祖国独立を目指す義烈団と彼らに接近する朝鮮人警官との駆け引きを描く『密偵』
祖国独立を目指す義烈団と彼らに接近する朝鮮人警官との駆け引きを描く『密偵』[c]Everett Collection/AFLO

監督は、ほぼ同じ時代を背景にした痛快活劇『GOOD BAD WEIRD グッド・バッド・ウィアード』(08)も手掛けたキム・ジウン。名優ソン・ガンホが日本警察に所属する警官イ・ジョンチュルに扮し、義烈団への共感と任務との間で揺れる心情をドライに見せている。映画全体が彼の心の変化を追う作りになっており、要所要所で見せる感情の高ぶりが、観る者の心を強く揺さぶる。さらに日本の敗戦まで、ただの一度も捕まることがなかったという義烈団の伝説的リーダー役でイ・ビョンホンも出演。


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