『シビル・ウォー』『ヘレディタリー』に次ぐ好発進!A24発のロマコメ『The Materialists』ヒットの秘訣は、ユニークなマーケティング戦略にあり?

『シビル・ウォー』『ヘレディタリー』に次ぐ好発進!A24発のロマコメ『The Materialists』ヒットの秘訣は、ユニークなマーケティング戦略にあり?

6月に北米公開され、週末興収ランキングで初登場3位にランクイン。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)と『ヘレディタリー/継承』(18)に次いでA24作品歴代No.3のオープニング成績を飾った『The Materialists』。その画期的なプロモーション方法を、「IndieWire」の記事を参照しながら紹介していこう。

第96回アカデミー賞で作品賞にノミネートされた『パスト ライブス/再会』(23)で長編監督デビューを飾り、自らも脚本賞にノミネートされたセリーヌ・ソン監督がメガホンをとった『The Materialists』。ニューヨークを舞台に、結婚相手の仲介業“マッチメイカー”として働く主人公が、完璧の男性とダメダメな元彼との間で板挟みになる姿が描かれるロマンティック・コメディ映画だ。

A24をはじめとしたインディペンデントスタジオ作品の多くは、サンダンス映画祭やトロント国際映画祭、カンヌ・ヴェネチア・ベルリンといった世界三大映画祭などでプレミア上映を行なうことで世界中の批評家の声を集めたり、都市部の劇場での限定公開で目の肥えた映画ファンの絶賛を勝ち取ってから拡大公開に踏み切ったり、あるいは配信プラットフォームも活用しながらより間口を拡げる戦略を取ることが多い。

ニューヨークで“マッチメイカー”として働く主人公をめぐる、恋のトライアングルが展開する『The Materialists』
ニューヨークで“マッチメイカー”として働く主人公をめぐる、恋のトライアングルが展開する『The Materialists』[c]Everett Collection/AFLO

この『The Materialists』も6月の北米公開が決定したタイミングで、直前に行われるカンヌ国際映画祭でお披露目されるだろうと推測されていたが、あえてそれを選ばず。メジャースタジオの大作映画がひしめき合うサマーシーズンのまっただなかに、いきなり2844館というそれなりの規模での拡大公開をスタートさせた。

その大胆な作戦の結果は冒頭で述べた通り。同週に公開された『ヒックとドラゴン』(9月5日公開)や公開4週目だった『リロ&スティッチ』(公開中)には及ばなかったものの、初日から3日間で興収1133万ドルを記録する大健闘。ちなみにソン監督の前作『パスト ライブス/再会』の北米累計興収は1130万ドル。オープニングでその成績を上回ったことになる。

【写真を見る】『パスト ライヴス/再会』のセリーヌ・ソン監督が、スターキャストとタッグ!クリエイターを前面に押しだした戦略の効果は…
【写真を見る】『パスト ライヴス/再会』のセリーヌ・ソン監督が、スターキャストとタッグ!クリエイターを前面に押しだした戦略の効果は…[c]Everett Collection/AFLO

そこから推測できるように、『パスト ライブス/再会』でソン監督の手腕に魅了されたコア層以外の観客の獲得に成功した『The Materialists』。ダコタ・ジョンソン、ペドロ・パスカル、クリス・エヴァンスというスター俳優のアンサンブル、ロマンティック・コメディというジャンルがライトな観客を惹きつけた主な要因であろう。しかし実際に作品を観た観客からは、予想されたものとは異なる“反ラブコメ映画”だったという声も少なくない。こうした観客の議論を呼ぶ内容も、口コミの拡散力を高める役割を果たすものだ。

また大きな話題を呼んだのは、公開前の週末にニューヨーク証券取引所をジャックするという前例のないプロモーション。なぜ証券取引所を選んだのかというのは、実際にその様子を見れば一目瞭然。事前にサイトで募集した、独身男性たちの名前や属性、身長、年収、アピールポイントを一覧にし、株式さながらにロマンティック指数の上昇と下降を一覧化。ユニークな方法で作品への興味関心をあおったのである。

さらに都市部を中心としたプロモーションでは、ソン監督を前面に押しだすという、いかにもクリエイター至上主義のスタジオらしい戦略にも打ってでたA24。これはすでにソン監督のファンである層を盤石なものとし、クリエイターで映画を観ることが多いコア層や、オリジナリティを求めるセミライト層の獲得にも繋がる。

このような、ただ気をてらうだけではないマーケティング戦略の併用によって、『The Materialists』は現在4週連続で興収ランキングのトップテン圏内を保持するスマッシュヒットに。北米累計興収はA24作品歴代8位まで浮上しており、さらなるロングヒットも見込まれている。若手クリエイターの発掘をはじめとした、斬新なクリエイティブで存在感を発揮してきたA24が、今後はマーケティングの面でも映画界に新たな風を吹かせてくれることだろう。


文/久保田 和馬

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