禍々しすぎる…『ドールハウス』矢口史靖監督が自らイメージした渾身の“箱”にまつわる裏話&設定画を入手!
『ウォーターボーイズ』(01)、『スウィングガールズ』(04)などの矢口史靖監督が得意のコメディ要素を封印し、長澤まさみ主演で作り上げた映画『ドールハウス』(公開中)。背筋が凍るような描写、悪意たっぷりのあまりに恐ろしい展開の釣瓶打ちに、公開以降「怖面白い」と話題を呼んでいる本作だが、劇中に登場する、とある“箱”の存在が気になった人も多いのではないだろうか?この度PRESS HORRORでは、矢口監督による渾身のこだわりが詰まっているという“箱”にまつわる裏話&設定画を入手した。
※本記事は、一部ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。
事故で5歳の娘を亡くし哀しみに暮れる佳恵(長澤)が、骨董市で見つけた少女の人形アヤを可愛がるうちに元気を取り戻すが、夫・忠彦(瀬戸康史)との間に新たな娘が生まれ人形に心を向けなくなると、次第に奇妙な出来事が起こる…というのが物語の導入。その後、次々と周囲の人々が餌食となり、アヤがヤバい人形だと気づいた忠彦は、呪禁師(じゅごんし)・神田(田中哲司)に頼ることに。そもそも呪禁師とは、奈良時代まで実際にあった、呪術を用いて病気治療や災いを予防し、鬼や邪気をはらう役目を担った役職のこと。平安時代以降に呪禁師の制度は廃止されて姿を消したが、本作の神田は、密かにその技を継承してきた最後の呪禁師であり、人形供養を専門としているという設定だ。
この神田という人物、実に頼もしい。呪術を扱う人物であるが、登場時はシゴデキなビジネスパーソン然としたスーツ姿で、人形に臆せずひたすら冷静にテキパキと事象を分析していく。彼が介入することで重苦しかった映画の空気が(一時的ではあるが)一変する。前述した“箱”は、そんな神田が人形を拘束するために使用するものだ。
箱は、矢口監督が自ら手描きで起こしたイメージ図があり、それをもとに美術部と特殊メイク・特殊造形の藤原カクセイが共同作業で作り上げたという。実際に劇中で登場した姿は、細かい変形ギミックと、さながら拷問器具のようでもある禍々しさから、「こんなものまで使わないとあのアヤを拘束なんてできない!」とすら思わせるような説得力があった。
アイデア源となったのは、なんと矢口監督の幼少期の実体験だという。インタビュー時に語ってもらった話では、「箱自体は僕の地元の神奈川県に実際にあんなのがあったんです。金網が張ってある、折鶴などで覆われた闇の中に観音様がポツンと立っているようなものでした。その重たい箱を隣家の人が背負ってきて、家にある間はお水とご飯を毎日変えてあげる。それで、1週間後にうちの母が背負ってまた次の家に持っていくしきたりだったんですけど、幼少期の僕はその箱が怖かったんです」だとか。
このエピソードは、関東地方を中心に日本各地で見られた「廻り地蔵」という民俗行事のことを想起させる。ちなみに廻り地蔵は、箱型の仏具である逗子に地蔵菩薩などを納め、集落や町内の家々を巡回させ祀る風習。各々の家で一定期間安置し、お供えをし、お経を唱えて、無病息災や家内安全を祈願するというものである。
当初シナリオ上ではそんな矢口監督の記憶に沿って、背負子(しょいこ)タイプの箱となっていたようだが、田中哲司が実際に背負ってみたところ大きすぎて不格好になってしまうということで、現在の形に落ち着いたそう。また、箱の“音”を特徴づけるために、ダビングで「チリーン」という音を付けているらしい。実際の箱に鈴はついていないが、この足された効果音によっても箱の存在感が圧倒的に増している。
細部にまで矢口監督のこだわりが光る『ドールハウス』。すでに本作を観た人も、ぜひ箱をはじめ、細部にまで目を配りつつ再鑑賞してみてはいかがだろう。
文/PRESS HORROR編集部