カンナの葛藤、想いを汲む小林の願い…『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』をレビュー!人間とドラゴン、自分と他者の“違い”をすり合わせる大切さ
価値観の違いによって発生するすれ違いを問う
これまでにも、人間とは違う、ドラゴンという種族の性質がエピソードの肝になったことはあった。また小林は、複数のドラゴンに人間の価値観を学んでもらうことで共に生きるようになっていった経験がある。その強さと冷静さ、そして愛情があるからこそトールは小林に惚れているし、カンナも含め多くのドラゴンたちが一目置いている。ただ今回は、そこに“親子の関係性”という揺るぎない要素が加わったことがいっそう事態を難問にさせている。
このテーマに関しては、観た世代によって受け取り方が変わってくるのだろう。子どもからの目線、親からの目線。第三者として親子を見つめる目線もあるかもしれない。それだけでない。小林が作中で悩み苛立つのはドラゴンという異質なものに対してだが、それと同じ苛立ちを、我々も日常生活で感じたことはなかっただろうか。もしかしたら苛立ちを感じる側ではなく、逆に相手を苛立たせる“理解しがたいもの”に自分がなっていたことはないか。また「どうせ変わらない」、「他人事だ」として終わりにしていたことがなかったか。そういったことを問われている気がした。
おなじみのスタッフ陣、おなじみのキャラクター
原作漫画が1話あたり12〜14ページほどのボリュームということもあり、テレビシリーズでは30分枠だからこそのテンポ感と日常感をベースに、ドラゴンという異質な存在で違和感を作ってきたが、本作ではそこから「劇場版だとこうなるんだ」というアップデートをしっかり見せてくれる。
監督は、「中二病でも恋がしたい!」、「響け!ユーフォニアム」という大人気シリーズを手掛け、「小林さんちのメイドラゴンS」の監督でもある石原立也。脚本の山田由香、音楽の伊藤真澄、主題歌のfhana、ほかにもキャラクターデザイン、作画監督の門脇未来をはじめ、多くの作画陣やスタッフがテレビシリーズの経験者で固められた安心感もある。もちろん、本作に初めて参加したスタッフによるすばらしい仕事も加わり、京都アニメーションの新たな代表作となる1本となったのではないだろうか。
カンナのかわいらしさ。小林の感情表現。トールやファフニール(声:小野大輔)らドラゴンたちの激しいバトル。カンナと同じ学校に通う翔太(声:石原夏織)の父であり、小林の会社の専務(声:家中宏)もしっかり登場。カンナの同級生、才川さん(声:加藤英美里)の存在感もいいし、エンディングのスタッフロールの横で流れる映像も観逃せない。
「4年ごとに新作を発表するなんて、世界的なスポーツ大会か某漫画のキャラクターかよ」というツッコミを入れたくなった人もいるかと思うが、待った甲斐は間違いなくあるので、ぜひ映画館で楽しんでほしい。
文/小林治
※fhanaの「a」はアキュート・アクセント付きが正式表記