カンナの葛藤、想いを汲む小林の願い…『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』をレビュー!人間とドラゴン、自分と他者の“違い”をすり合わせる大切さ
親子の絆をテーマにした、劇場アニメ『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』が6月27日より公開中だ。原作は、クール教信者が描く同名漫画。2017年に第1期となるテレビアニメ「小林さんちのメイドラゴン」が、2021年には第2期となる「小林さんちのメイドラゴンS」が放送。4年というブランクはあったものの、その人気は衰えず新たな盛り上がりを見せた。そして、またまたその4年後となる今年、シリーズ初となる劇場作品『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』として帰ってきたのだ。
日々お疲れの会社員が、孤独なドラゴンと出会い家族になっていく
本シリーズは、テレビアニメのころから親子の絆がテーマになってきたわけではない。本作としての主人公は、日々システムエンジニアとして仕事に向き合うOLの小林(声:田村睦心)。ある日彼女は、酔った勢いで山へ踏み入り、そこで出会ったドラゴン=トール(声:桑原由気)と酒を酌み交わし、勢い余って「私のとこ来る?」と言ってしまう。故郷に戻れず人間社会でも行き場のなかったトールは、その言葉に救われ翌朝に小林のマンションを訪問。そこから人間とドラゴンの奇妙な同居生活が始まるのだが、2人の生活がまだ固まっていないタイミングで新たな同居者が加わる。それが今回の劇場版で主役となるカンナ(声:長縄まりあ)だ。
いたずらがきっかけで親もとから追放されたカンナが加わったことで3人の生活が始まり、幾歳月。メイド服で小林家の家事をこなし、商店街の人たちと顔見知りになり人気者にもなったトール。人間社会を知るために通い始めた小学校で友だちが増えていくカンナ。そんな穏やかな日常を作ろうとする3人が、エルマ(声:高田憂希)、イルル(声:嶺内ともみ)らほかのドラゴンや、トールたちがいた元の世界の事情に振り回されたりするコメディというのが本作の形だ。そしてその日常は、カンナがトールを姉と慕い、冗談でも小林を「おとうさん」と言う程度には家族の体を成していた。
人間とドラゴンの“家族”のあり方を考える劇場版
本作の冒頭は、ある朝、カンナが見た夢から始まる。背の高い草が茂る広々とした草原のような場所で走る父(=ドラゴン)。父の背中にすがりついているカンナ。だがその夢は夢で終わらなかった。カンナの父キムンカムイ(声:立木文彦)が本当に小林家にやって来たのだ。久々の親子対面でキムンカムイはカンナへ告げる。ほかの勢力との戦いでカンナがイタズラで壊してしまった“龍玉”が必要になった。カンナに流れ込んでいたその力を抽出し新たに“龍玉”を作るため戻ってこい。あまりにも冷酷無比だが、ドラゴンには精神的に大人も子どももなく、人間とは違い親子の間に愛情が微塵も介在しないのがドラゴンの“普通”。だが、人間社会を知ってしまったカンナにとってそれはつらいものだった。
これをきっかけに物語は日常から大きく離れ、シリアスとファンタジーが混じり合い、感情だけでなくバトルもまた大きく波打つ展開へと進んでいく。ドラゴンたちの「混沌勢」、「調和勢」、「傍観勢」といった派閥も登場し、登場するドラゴンの数はシリーズで最大となっているのではないだろうか。