“邦画は観ない派”のアレン様『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』を忖度ナシでレビュー!「なにも言わずに映画館に行って」
※ここから先は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。
「私がこんなにも邦画にのめり込むのって、かなりレアだから」
本作にふれ、アレン様の胸にいちばん強く残ったのは、「10年の重み」だという。裁判の結果、原告側の薮下に対する請求は棄却。律子が主張するような強い体罰の事実はなかったと判決が下された。薮下への疑いは晴れたものの、苦い後味を残し、裁判は決着。その後、薮下に対する懲戒処分が市の人事委員会によって取り消されるまでに10年の歳月を要した。
「かけられた冤罪を晴らすのに10年もかかったの。その重みが苦しくてね。家族のことを考えて離婚しようと言われたのに、最後まで夫を信じて奥さんは支え続けたわけじゃない?なのに、薮下の懲戒処分が取り消された時は、もうすでに奥さんは亡くなっていた。本当はあの時、いちばん喜びを分かち合いたかったのは奥さんだったと思うの。でも間に合わなかった。それが悔しくて、怒りと涙がこみ上げました」。
事件の真相を踏まえたうえで改めてアレン様に感想を聞くと「まず許せないのは、児童の母親よね」と一刀両断。「教師のほうは10年という長い時間をめちゃくちゃにされたのに、母親側の家族はなにも罰を受けていない。こんな理不尽なことってある?」と憤懣やるかたない。
さらに、怒りは記者の鳴海にも飛び火。「コイツが最初にちゃんと裏取りをしていれば、こんなことにはならなかったわけでしょ?少なくとも大衆に火をつけたのは、この記者。亀梨さんの演技がお上手だったこともありますが、腹が立ちすぎて、もう亀梨さんのことが嫌いになりそうでした(笑)」と本音が炸裂した。
つい見境がなくなるほど感情移入するのは、それだけ俳優陣の演技が真に迫っていた証拠。邦画を観ないアレン様だけに「本当に申し訳ないんですけど、実は綾野剛さんのお芝居を観るのも初めてだったんです」と告白。初めて体感した実力派俳優の演技の感想を尋ねると「この方、演技上手ね〜〜!」と目を丸くしながら、シンプルすぎる賛辞で綾野の熱演を称えた。
アレン様を敬愛するクリマンに向けて「絶対この映画は観てほしい。みんな、私が普段から邦画を観ないことはよく知ってると思うの。そんな私がこれだけ言うんだから、とにかくなにも言わずに映画館に行ってください」と呼びかける。「私がこんなにも邦画にのめり込むのって、かなりレアだから。洋画好きのアレン様が129分ひたすら感情がしどろもどろになった映画です。ぜひヒットしてほしい!」。
ちなみに、そんなアレン様に、本作と通じるような映画体験ができる洋画を尋ねると、紹介してくれたのが、アンドリュー・ニコル監督による『TIME タイム』(11)。ジャンルはまったく違うが、共通点は「人間力が試されるところ」。究極の選択を前に浮かび上がる人間の本質に通じるところを見たという。
どれだけ文明が発展し、どれだけ価値観が成熟しても、ひと皮剥けば人間は愚かで、浅はかで、野蛮な生き物だ。そんな人間の恐ろしさを体感したい人は、ぜひ『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』を観て、思う存分震え上がってほしい。
取材・文/横川良明