カンヌから現地レポート!アリ・アスター監督×A24最新作『Eddington』キャスト陣が明かした本作への想いとは?
『ミッドサマー』(19)や『ボーはおそれている』(23)を手掛けたアリ・アスター監督の最新作『Eddington』が、第78回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映された。『Eddington』はA24が製作と配給を手掛け、現代アメリカにおけるコロナ禍起因の社会の分断と混乱を描いた意欲作。
物語の舞台は2020年5月、ニューメキシコ州の架空の小さな町エディントン。この町では、保安官ジョー・クロス(ホアキン・フェニックス)と、カリスマ的な現職市長テッド・ガルシア(ペドロ・パスカル)の対立が深まっていた。COVID-19のパンデミックが緊張を悪化させるなかで、ジョーが市長選への出馬を決意したことから、町は混乱に陥っていく。右派の陰謀論や黒人差別問題、ジョージ・フロイドの死をきっかけとしたブラック・ライブス・マター運動(警察暴力への抗議活動)などがニュースやSNSを通じて広がり、住民たちは互いに不信感を募らせていく。
プレミア上映後に行われた記者会見には、アスター監督をはじめ、主演のフェニックス、パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラーらが登壇し、映画に込めた想いや撮影中のエピソードを語った。
アスター監督は、本作の脚本を「世界について恐怖と不安を抱えているなかで書きました」と述べ、「誰も同じ現実を共有していない世界に生きる感覚を捉えておきたかったのです。過去20年間、私たちは極端な個人主義に陥ってしまったのではと感じています。リベラルな大衆民主主義において中心的な役割を果たしていた“世界観の共有”という社会的抑制力が失われ、COVID-19によってそのつながりが完全に断たれたように感じられました。私にとってのアメリカとはなにか、そして当時の感覚を映し出す映画を作りたいと思っていました」と語った。
保安官ジョーを演じたフェニックスは、自身が演じたジョーと自身のパンデミック経験はまったく異なるものだったと断ったうえで、「この映画では、パンデミック期間の私たちの多くがそうだったように、切実に自己承認と人とのつながりを求めている人物を描いています。世界中の人々が隔離され、物理的に離れ離れになっていた時期に、私たちはオンラインを通じてつながることを切望しました。それが問題をより悪化させたのではないかと思います。このキャラクターがスパイラルに陥っていく様子はとても興味深く、彼を愛しく思いました」と述べている。
ジョーと対峙するテッド市長を演じたパスカルは、「この映画を観て、私はアメリカ文化を外側から見る視点に慣れすぎていたんだと感じました。政治や社会学など、私たちの非常に複雑な文化の問題を捉える方法はたくさんあるけど、アリ(・アスター)の映画はまるで、実際にはなにが起きているかを内部告発するスパイのような視点を持っています。その視点は本当に力強く、昨夜完成した映画を観るまで、私はアリの視点を完全には理解していなかったのだと思い知らされました。脚本を読んだ時は、勇気に満ち、共通の真実を失った世界について語るものだと感じていました。すべての視点、すべてのニュアンス、すべてのアイデアが、真実味に満ちていると感じたからです」と熱っぽく語った。
ジョーの妻ルイーズを演じたストーンは、友人であり“現存する最も重要なストーリーテラー”であるアスターからのオファーに応じ、出演を決めたという。役柄について監督と話し合い「幽霊(ゴースト)」という言葉にたどり着いたと語る。「ルイーズは多くのトラウマを抱え、ジョーとの結婚生活も危うい状況にあります。彼女をジョーの人生に漂う幽霊のような存在として想像しました。ジョーが決断を下すなかで、彼の人生にルイーズの影が重くのしかかっているのです。この映画での体験は本当に興味深い挑戦で、これまで経験したことのないものでした。そして、アリやホアキン、オースティン、キャストのみなさんと一緒に、本当に美しくも切ないキャラクターを見つける経験ができました」と想いを述べていた。
カンヌでのプレミアにおいて、『Eddington』は5分間のスタンディングオベーションを受けた。フェニックスらキャストは感極まり、涙ぐむ様子もみられた。現地時間24日に行われる授賞式では、ジュリエット・ビノシュ審査委員長らによる受賞結果が発表される。
『Eddington』は、A24配給で2025年7月18日全米公開。日本での公開時期については未定のため、続報に期待したい。
文/平井伊都子