非公式だった元祖吸血鬼映画を正統なものに!リメイク版『ノスフェラトゥ』や『死霊伝説』、『ブレイド2』に与えた影響をたどる
『ライトハウス』(19)、そして『ノースマン 導かれし復讐者』(22)のロバート・エガースによる新作ホラー『ノスフェラトゥ』(公開中)は、ドイツのフリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウが監督し、1922年に公開されたサイレント映画『吸血鬼ノスフェラートゥ 恐怖の交響曲』(以下、『恐怖の交響曲』)のリメイクだ。
「吸血鬼ドラキュラ」を非公式に潤色した『吸血鬼ノスフェラートゥ 恐怖の交響曲』
オリジナルは映画における最初期のヴァンパイア・ストーリーとして知られているが、1987年に出版された英アイルランドの作家ブラム・ストーカーによる古典小説「吸血鬼ドラキュラ」を非公式に潤色した、グレーないきさつを経ている。そのため著者の未亡人フローレンス・ストーカーは製作元のプラナフィルム社を相手に、著作権侵害で訴訟を起こしている。
ドイツ裁判所は判決を「イギリスの著作権はドイツでも有効」と下し、『恐怖の交響曲』のネガとプリントの焼却命令が出された。しかし、破棄の明確な証明を規定しなかったため、いくつかのプリントは国外に流れ、完全な消滅を免れている。それは劇中さながら、越境してドイツ上陸を果たし、悪病を広める吸血鬼ノスフェラトゥことオルロック伯爵(マックス・シュレック)のようでもあった。
紳士的なドラキュア伯爵のキャラクターが確立される一方、『恐怖の交響曲』が後世に与えた影響も大きい
その後、ストーカーの原作はオフィシャルな承認を得たうえで『魔人ドラキュラ』(31)として映画化され、同作でベラ・ルゴシが演じた黒マントで紳士的な佇まいを見せるドラキュラ伯爵が、のちの吸血鬼像を決定づけていく。
しかし、『恐怖の交響曲』におけるオルロック伯爵の怪物然とした異貌は、トビー・フーパーが手掛けたテレフィーチャー『死霊伝説』(80)に登場する吸血鬼をはじめ、ギレルモ・デル・トロをメジャーに押し上げた『ブレイド2』(02)のリーパーズや、リチャード・マシスンによる黙示録小説「地球最後の男」(旧題「吸血鬼」)の再々映画化『アイ・アム・レジェンド』(07)における変異体ダークシーカーなどへと継受され、その影響力はとてつもなく大きい。