是枝裕和監督に独占インタビュー。”普段はやらない”試みだらけの『ラストシーン』で探求する、技術革新と人間性の調和
是枝裕和監督は、映像作品を作るうえで常に新しい挑戦を自身に課してきた。2018年に『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルムドールを受賞した後、『真実』(19)ではフランスとの合作で初の非日本語映画を監督、続く『ベイビー・ブローカー』(22)では韓国映画界との協働、2023年『怪物』では脚本家の坂元裕二とタッグを組み、カンヌ国際映画祭での脚本賞受賞と高い評価を得た。2025年は向田邦子の「阿修羅のごとく」をリメイクした。作品ごとに国内外で高い評価を得ると同時に、新しいものを自身の制作活動に取り込んでいる。
そんな是枝監督が今回挑んだのは、iPhone 16 Proを使った映画撮影。「iPhoneで撮影 — Shot on iPhone」キャンペーンの一環として5月9日より公開されたこの短編映画『ラストシーン』は、是枝監督にとって4つの大きな挑戦を含んでいる。
「映画館で観る映画の文法とは違うものを作ってみようと思いました」
第一の挑戦は短編映画。長編映画やCMの制作経験はあるものの、短編という凝縮された物語形式は是枝監督にとって新たな試みとなった。「実は、短編はあまり経験がないんです。30秒のコマーシャルか、長編映画かという極端なフィルモグラフィで」と自ら語るように、長編映画とは異なるセオリーを要する短編映画制作の難しさに挑戦した。もともとは冒頭のファミレスのシーンのように、2人の会話劇で進めることを考え企画を始めたのだという。『ラストシーン』という意味深長なタイトルは、映画が完成したあとにつけたそうだ。
第二の挑戦はジャンルの刷新。家族のあり方や、人間と社会のつながりを繊細に描いてきた是枝監督が、「ラブストーリー」「タイムトラベル」「歌詞のある主題歌の起用」という、自身の言葉で「普段はやらない3つ」の要素に取り組んだ。『ラストシーン』の物語は、脚本家の倉田(仲野太賀)と、50年後の未来から訪れたという由比(福地桃子)が「テレビドラマのラストシーンを書き換えてほしい」と依頼したことから、「未来になにが残り、なにが消えるのか」という普遍的なテーマを探求する。
第三、そして最も大きな挑戦は、iPhone 16 Proに装備されているカメラを用いた撮影スタイル。是枝監督は『そして父になる』(13)、『海街diary』(15)、『三度目の殺人』(17)、そして「阿修羅のごとく」で組んでいる撮影監督の瀧本幹也氏と共に取り組んだ。「iPhoneで撮る短編映画の企画なんてめったにないから、映画館で観る映画の文法とは違うものを作ってみようと思いました」と語る是枝監督は、小型カメラならではの自由度と親密性を最大限に活かした。撮影機材を自作するほどの“技術オタク”である瀧本氏ならば、「iPhoneのみで撮影という条件に興味を示すだろうと直感しました。瀧本さんが『やりましょう』と言ったらこの企画を引き受けようと思ったんです」と是枝監督は語る。特に、主演の2人が走るシーンで使った“アクションモード”の安定性には現場スタッフから感嘆の声が上がったという。「移動車やレールといった従来の機材がなくても、手持ちカメラで追走しながら驚くほど安定した映像が撮れるんです。これは今後も使えるかもしれないね、と瀧本さんも話していました」と是枝監督は評価している。
また、iPhone 16 Proの音声録音機能の進化も撮影の可能性を広げた。オーディオミックスという機能によって、撮影後に台詞と環境音を分けてコントロールすることができるという。「いくら画質が向上しても、大きなスクリーンで観たときには音は厳しいかな、と思っていたんですよね。だけど、今回iPhone 16 Proを使うにあたって説明を受けた限りで言うと、相当音質も改善されていて、次にやる時はもうこのiPhoneの音だけでいけるかも、と思っています」と、是枝監督は録音機能にも新たな表現の可能性を見出す。