20世紀を代表する作家で、妻殺しの奇人!稀代のカルチャーアイコン、ウィリアム・S・バロウズにまつわる映画8選

コラム

20世紀を代表する作家で、妻殺しの奇人!稀代のカルチャーアイコン、ウィリアム・S・バロウズにまつわる映画8選

ビート・ジェネレーションを代表する作家として知られ、ドラッグジャンキー、そして底抜けた奇人としても人々を魅了して止まないウィリアム・S・バロウズ。そんな彼の人生や創作の秘密に迫ったドキュメンタリー『バロウズ』が公開中だ。実体験に基づく麻薬中毒者の切迫した感覚を描き、数々の著名人に影響を与えてきたバロウズ。『クィア/QUEER』(公開中)などの原作に加え、俳優としても活躍するなど映画とも深い関わりを持っている。そんなバロウズにまつわる映画をここで振り返っていきたい。

【写真を見る】公開中のドキュメンタリーなど、バロウズにまつわる映画をチェック!(『バロウズ』)
【写真を見る】公開中のドキュメンタリーなど、バロウズにまつわる映画をチェック!(『バロウズ』)[c] 1983 Citifilmworks / [c] 2013 Pinball London Ltd. All rights reserved.

ドラッグや同性愛など、自伝的小説を映画化『クィア/QUEER』

その実験的で難解な内容から映画化作品はあまり多くはないバロウズだが、小説「クィア」を『君の名前で僕を呼んで』(17)、『チャレンジャーズ』(24)のルカ・グァダニーノ監督が映画化した『クィア/QUEER』が現在公開されている。

バロウズの自伝的小説を映画化した『クィア/QUEER』
バロウズの自伝的小説を映画化した『クィア/QUEER』[c]2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.

1950年代、メキシコシティ。退屈な日々を酒や薬でごまかすアメリカ人駐在員のウィリアム・リー(ダニエル・クレイグ)は、若くミステリアスな美青年ユージーン・アラートン(ドリュー・スターキー)と出会い、恋に落ちる。ユージーンを求めるほどに孤独を募らせるウィリアムは、人生を変える体験をすべくユージーンを幻想的な南米への旅へと誘いだす。

グレイグの演じるウィリアムのビジュアルをはじめ、麻薬中毒者、同性愛者という類似点からもわかるように、バロウズのメキシコでの生活をベースにした自伝的作品となっている。原作もほかの小説と比べて比較的読みやすく、その意味でもバロウズ入門といえる1作だろう。

難解な小説をクローネンバーグが映画化した『裸のランチ』

麻薬中毒の幻覚にあふれる映像が楽しめる『裸のランチ』
麻薬中毒の幻覚にあふれる映像が楽しめる『裸のランチ』TM & Copyright [c] 20th Century Fox Film Corp./courtesy Everett Collection

バロウズ原作映画の代表作といえば、カットアップ手法(一度書かれた文章をバラバラにして、それらをランダムにつなぎ合わせること)による難解さから映像化不可能と言われた同名小説をクローネンバーグ監督が実写化した『裸のランチ』(91)だろう。

小説家を志しながら害虫駆除業者として生計を立てるウィリアム・リー(ピーター・ウェラー)は、妻のジョーン(ジュディ・デイヴィス)が殺虫剤を麻薬の代わりにしていることを知り、自らも殺虫剤に手を出してしまう。麻薬所持で警察に連行されるが、取り調べの最中に上司だと言い張る謎の虫の幻覚に襲われ…。

虫と一体化したタイプライターもインパクト抜群だ(『裸のランチ』)
虫と一体化したタイプライターもインパクト抜群だ(『裸のランチ』)TM & Copyright [c] 20th Century Fox Film Corp./courtesy Everett Collection

もともとの小説はカットアップ手法により麻薬中毒の幻覚や混乱した超現実的イメージが羅列された作品であるため、映画はクローネンバーグ監督のオリジナルといえるストーリーだが、ウィリアム・テルごっこで妻を誤射した逸話などバロウズ的要素もしっかりと味わうことができる。

ビート族の人間関係が描かれる『キル・ユア・ダーリン』

ダニエル・ラドクリフ主演の『キル・ユア・ダーリン』(13)はバロウズの原作ではないが、バロウズの盟友として知られる詩人のアレン・ギンズバーグがコロンビア大学時代に経験した殺人事件を題材にしており、バロウズやジャック・ケルアックらも物語に登場する。

ビート・ジェネレーションの関係性を題材とした『キル・ユア・ダーリン』
ビート・ジェネレーションの関係性を題材とした『キル・ユア・ダーリン』Sony Classics/Courtesy Everett Collection

1994年、コロンビア大学に入学したギンズバーグ(ダニエル・ラドクリフ)は、保守的な大学に幻滅し、自由奔放に生きるルシアン・カー(デイン・デハーン)に惹かれるようになる。ルシアンの友人であるバロウズ(ベン・フォスター)やケルアック(ジャック・ヒューストン)らと意気投合するなか、ルシアンと特別な関係を築いていくギンズバーグだが、彼に元恋人デヴィッド(マイケル・C・ホール)が付きまとい…。

盟友アレン・ギンズバーグがバロウズを語る場面も(『バロウズ』)
盟友アレン・ギンズバーグがバロウズを語る場面も(『バロウズ』)[c] 1983 Citifilmworks / [c] 2013 Pinball London Ltd. All rights reserved.

『バロウズ』でギンズバーグが「バロウズと私は恋に落ちて一緒に寝た」と語っているビート・ジェネレーション内の濃密な関係性を垣間見ることができる1作だ。

妻殺しまでを妻視点で描いた『バロウズの妻』

『バロウズの妻』ではキーファー・サザーランドがバロウズを演じた
『バロウズの妻』ではキーファー・サザーランドがバロウズを演じた[c]Everett Collection/AFLO

同じく『バロウズの妻』(00)もビート・ジェネレーションの人間関係を題材に、バロウズがウィリアム・テルを真似て、妻ジョーンの頭にのせたグラスを撃とうとして誤って彼女を殺してしまうまでを、妻の視点でたどる。

同性愛やドラッグ、そしてビート族の濃厚な人物たちによるドラマが実話をベースに淡々と描かれていく本作。バロウズをキーファー・サザーランドが演じたほか、妻ジョーンを、バロウズに心酔していたことでも有名なNirvanaのカート・コバーンの妻コートニー・ラブが演じた。

ノイズで管理社会に抵抗する『デコーダー』

バロウズの諸短編をベースにした『デコーダー』(83)は、近未来を舞台に管理社会を混乱に陥れようとする男の体制との戦いを描くSF。ハンバーガーショップの客に大衆操作の影を感じた青年のF・M(F・M・アインハイト)は、店内の音楽を解析し、消費者を管理しようとする組織の存在に勘づく。やがて街にあふれる様々なノイズをサンプリングして人々の神経に影響を与えるテープを作り上げたF・Mは、仲間と共にテロ活動を開始していく。

実際にコントロールに抵抗するため、テープレコーダーを使った音声のカットアップといった実験を行っていたバロウズ。本作にも出演しており、F・Mをそれとなくそそのかすパーツ屋の主人を演じている。


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