丸山隆平が『金子差入店』で見せた役者としての進化「40代としての覚悟と責任感を持って取り組んだ」
「自分の中の精神的な筋肉になったり、骨や血肉になったことに気づくのは、そのあと、ほかの作品を経験してから」
──丸山さんの経験値としても、新たなステージに感じられるような重要な作品だと感じましたが、ご自身の心境は?
「うれしいです。自分の人生の上でもそうですが、誰しもいろんな経験があるじゃないですか。僕の場合、音楽もそうだし、アイドルとしてのキャリアもそう。でもなかなか実感が湧いてくることが少ない。それが例えば“評価”という意味で言えば周りの目だったりするんですが、自分の中の精神的な筋肉になったり、骨や血肉になったことに気づくのって、そのあと、ほかの作品を経験してからだったりするんですね。役どころや、作品のメッセージ性を踏まえると、人が持つ普遍的で一番フラットなところにここまでアプローチしたのは初めての経験でした。そう言っていただけるのはとてもありがたいことだし、そうなったらいいなとは常に思っています」。
──『泥棒役者』で初主演されたころと、いまの変化といいますか、違いがあるとしたら、それは成長以外になんでしょう?
「その時々の役に対してアプローチの仕方を、これまでの場数や経験から見いだしてきました。2022年の舞台で劇作家の赤堀雅秋さんと組んだ時に、自分の中でこれまでと違う芝居のアプローチみたいなものを見つけた感触がありました。例えば冒頭から激しいシーンがあれば、その前に稽古場で同等のテンションで“仕込み”みたいなことを試してみるんです。事前にそれをやることで、本番では確信をつかめたような感触を得ました。これは映画など、映像の場合にも適用できるのかしら?と思って、それからはそうした“シーンの仕込み”を毎回本番の前に試すようにしています。演技とそうでない状態の縫い目が見えないようになっていくような感覚とでもいいますか。そんなニュアンスで現場での挑み方とアプローチが変わりました。より丁寧により深く、という意識のところで『こういうこともできるんだ』という発見が舞台でしたから。近年、その意識が大きく変わったのかなと感じています」。
「観客の皆さまにとって“違和感がないこと”が一番の理想であり到達地点」
──本作に限らず、丸山さんが映画で最もこだわることはなんですか?
「『お客さまが違和感を感じないままナチュラルに観てくださること』ですね。いただいた役柄に対してより緻密に、より大胆にアプローチできるか?みたいなことを考え、観客の皆さまにとって“違和感がないこと”が一番の理想であり到達地点です。同時に監督が違和感を感じればそれはその世界感に馴染めていないということなので、感覚の方位磁針のように、違うと感じた部分は修正することを心掛けています」。
──撮影で印象的だったエピソードはありますか?
「監督がモニター越しにあるシーンの演技を見ていて、お芝居を終えた直後に人知れず涙を拭いていたことがありました。いま、僕たちが演じたシーンが監督の求めていたものと合致したんだという感触を感じた瞬間でした。それがうれしくて、なによりものOKだと思いました。そういう場面は結構ありました。その反面、こちら側からしたらややプレッシャーにもなっていって(笑)。しかしその想いを叶えたい!と思わせてくれる監督なんですよね。ちょっと厳ついお兄さんなんですが(笑)。鬼の目にも涙じゃないですけど、監督が落涙すると僕もグッときてしまい…弱いんです!印象的な時間でした」。