『サブスタンス』観客のリアルな感想は?“狂気のエンタメ”は「超面白くて超怖くて超展開!」「ずっと口あんぐり」
これぞ映画の醍醐味!観る人によって捉えかたが異なる、狂気のエンタテインメント
ここまで紹介したコメントを見ても、いったいどんな映画なのか?と首をかしげている人も少なくないだろう。アンケートで「どんな作品が好きな人に刺さると思うか?」という質問を実施したところ、挙がってきたタイトルは驚くほどバラバラ。
そのなかでも特に「類似点が多い」という声が目立ったのは、人気漫画家の岡崎京子が1990年代中盤に発表し、実写映画化もされた「ヘルタースケルター」。容姿にコンプレックスを抱いていた主人公が全身整形を施したことからファッションモデルとして絶大な人気を獲得。しかし、次第に整形手術の後遺症や、美貌を保つためのストレスによって心身ともに蝕まれていくさまがセンセーショナルに描かれる作品だ。
「本作のリファレンスにあったのでは?と思われる美への執着がとても似ていると思う」(40代・女性)
「美しい自分への執着や破滅に向かう感じ」(30代・女性)
「美しさのためだったら手段を選ばない感じ」(20代・女性)
「美や若さに執着する登場人物に類似点があると感じたから」(20代・女性)
「全体的に鮮やかな色使いで近いものを感じたので、ファッションなどに興味のある人(特に女性)に刺さると思った」(20代・女性)
さらに、若く美しくありたいと不老不死の薬を飲んだ女性たちが騒動を巻き起こす『永遠に美しく…』(92)や、ダイエットのために麻薬にのめり込む老女が登場する『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)、美に取り憑かれる女性を描いた韓国アニメ『整形水』(20)など、“若さと美貌”、そして“破滅“といったキーワードで共通する作品が並ぶ。「老いることに抗いたい全女性(に刺さる)。老いること、容姿の衰えを受け入れることは難しいが、抗うことのほうがはるかに困難です」(50代・女性)
ほかにも『サンセット大通り』(50)や『イヴの総て』(50)、オスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」など、過去の栄光にすがる主人公が描かれる名作を挙げている人もいれば、『ザ・フライ』(86)や『イグジステンズ』(99)といったデヴィッド・クローネンバーグ監督作品、『マルホランド・ドライブ』(01)などのデイヴィッド・リンチ監督作品といった作家性の強い作品。近年のものだと『ミッドサマー』(19)などのアリ・アスター監督作品や、本作同様にカンヌで称賛されパルム・ドールを受賞した『TITANE/チタン』(21)を想起したという声もあり、観る人によってまったく違う捉え方ができる作品だとよくわかる。
今回の試写会では、上映後に「TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています」や「行方不明展」で知られるテレビ東京プロデューサーの大森時生と、『ナミビアの砂漠』(23)を手掛けた山中瑶子監督を招いたトークショーも行われた。本作にすっかり魅了されたという2人は、それぞれの視点からトークを展開。「ジャンルでカテゴライズするのを迷ってしまうぐらい、エンタメしているとしか言いようがない」と語る大森に、山中監督は「二日酔いの辛さを大きくしたようなところのある映画。先のことを考えて自分を大事にしようというメッセージを受け取りました」と本作の持つテーマにも言及。
そんな2人のトークを受けて、観客からは「人によって感想が違い驚きました」(10代・女性)といった、目から鱗の声が多数寄せられた。
「度肝を抜かれて作品についてどう解釈すればいいのか悩むところ、お二人の視点から言語化されて腹落ちした。美への解脱に至るための作品だと感じた」(30代・男性)
「終わった後のカオスな感情をまとめて、そして代弁してくれたようなトークショーでした」(20代・女性)など、年代、性別などが異なる他者の視点を知ることで、感想が変化していくこともあったようだ。
「観てすぐ他の人と感想を共有できてうれしかった。『あっ考えること一緒だ』と共感できた」(20代・女性)というコメントからもわかるように、観終わった時に誰かと感想をシェアしたくなる奥深さも本作の魅力の一つ。1人では咀嚼しきれなくても、誰かと語り合えば新たな視点や発見と出会えること間違いなしだ。
作品のジャンルや性別、年齢といった外的なバイアスを気にせず、自由な視点で感じるまま好きなように楽しむことこそ映画体験・エンタメ体験の醍醐味。何度観ても“前回”を超える新鮮な衝撃が味わえる本作は、まさにみんなで盛り上がるには打ってつけの作品といえる。是非とも劇場に足を運び、噛めば噛むほど魅力が湧きでてくる本作に、どっぷりと浸ってみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬
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※通常料金(※ムビチケ利用不可、無料鑑賞不可)
※実施有無、上映時間、チケット購入方法など詳細は劇場HPをご確認ください。
※本作品はR15+指定作品のため、15歳未満の方はご鑑賞いただけません。
