死を告げる鳥“デス”はこうして創られた!『終わりの鳥』撮影秘話&メイキング写真
A24が送る一風変わったヒューマンドラマ『終わりの鳥』(公開中)。本作より、死を告げる鳥“デス”の撮影秘話とメイキング写真が解禁となった。
地球を周回して生きものの“終わり”を告げる鳥デスと、その鳥と寄り添う病を抱える少女。かたや一心不乱に鳥と闘う少女の母親。世にも奇妙なデスとの対峙によって、母娘2人は間もなく訪れるであろう別れを次第に受け止めてゆく。本作で長編監督デビューを飾ったのは、次世代を牽引する新たな才能を発掘してきたA24に見出されたクロアチア出身のダイナ・O・プスィッチ。新鋭プスィッチのもと、風変わりな表現、アイス・キューブの名曲「It Was a Good Day」も使用しながら驚きとユーモア、涙で満たされた物語として作り上げられた。
このたび解禁されたのは、喋って歌って変幻自在な一羽の鳥、デスを演じた俳優アリンゼ・ケニと余命わずかな少女チューズデー役のローラ・ペティクルーを捉えたメイキング写真。デスという大胆なキャラクターにリアリティを持たせるべく、実際にその場で演じるケニを中心に据え、キャスト同士の掛け合いが自ずと発生する環境が用意された。
「人間の大きさになるシーンでは、ケニが実際にその場で演技し、編集時にVFXチームが彼の姿の上に直接アニメーションを描いていきました」とプスィッチ監督は話す。限られた予算の中でいかにリアリティのあるデスを生み出すか、試行錯誤を繰り返し、多くの時間が費やされた。後々の編集作業の都合のため、入念なリハーサルを経て、VFXを使用するシーンでは3回ずつ撮影を行う必要があったという。また、これは2週間の期間で撮り切るハードな撮影スケジュールでもあった。
本作でVFXスーパーバイザーを務めたのは、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(21)、『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(21)など数多くの大作にも携わってきたマイク・スティルウェル。彼が取り組むプロジェクトでは、VFXとライブアクション映像をシームレスに融合することを可能とし、ストーリーテリングが向上すると定評があるため、デスを創出する上でも非常に重要な存在だったとプスィッチ監督は絶大な信頼を寄せる。同じくVFXスーパーバイザーを担当したアンドリュー・シモンズもまた、『ワンダーウーマン』(17)、『ボヘミアン・ラプソディ』(18)、『マレフィセント2』(19)、『ライオン・キング』(19)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)などに携わり、20年以上の経験を持つベテランスタッフだった。
撮影前の準備に1年、撮影後のポスプロダクションに1年をそれぞれ費やし、本作は完成した。プスィッチ監督は「デスのデザインは私たち3人(前述のスティルウェルとシモンズ)で考えました。恐ろしくもあり、愛らしい雰囲気と外見を探し求めていくなかで、“死”の視覚化という役割を、光のような形状に担わせようかと考えた時もありましたが、真実味のある話し方をし、この世のものでありながらも遠く離れた対象とも感じさせる、本質的な不死性と全能性が備わった存在を考え、コンゴウインコに基づくことに決めました。でも、よく目にするコンゴウインコそのものの姿をしていたらリアリティに欠けるだろうとも思ったので、絶滅した鳥たちも含め、様々な種類のコンゴウインコの特徴といろんなフォルムの鳥類を掛け合わせ、ユニークな怪物を創り上げました」と明かす。
続けて、「人間より大きくなったり、掌に収まったりとデスは自由自在。そのため、各シーンにおけるデスのサイズ、見た目を考え、その時々での翼の羽ばたき方、歩き方、威厳があるように見せる為にはどうやって関節を動かすのか…。鳥みたいだけど、鳥じゃない動きをするにはどうしたらいのか、多くの議論を交わしました」という苦労を重ねたうえで、畏怖の存在でありながらもチャーミングさを兼ね備えるデスが誕生したようだ。
A24のサポートのもと、本作で長編映画デビューを果たしたプスィッチ監督は、クロアチア出身で現在はロンドンと2拠点で活動している新進のクリエイター。100 歳の母を介護する75 歳の娘のもとに、コウモリが棲みつくという初の短編映画『Zvjerka(英題:The Beast)』(13)を制作すると、2015年のサンダンス映画祭ほか30 以上の映画祭で上映され、多数の賞を受賞した。
また、Adobe Stock Film Fest 2020では、Adobeのストック・フッテージのみを使用した短編『We Fight but You're Fabulous(原題)』をオンラインのみで発表。主人公の男性と母親との対話を通し、パンデミックの中にいる孤独とフラストレーションを世界のつながりとして浮かび上がらせた映像もまた、初の長編作品となった本作への確かな足がかりとなっている。先日行われたオンラインインタビューでは、好きな日本人監督として黒澤明を挙げ、特に『蜘蛛巣城』(57)がお気に入りだと明かし、シネフィルの一面も覘かせている。
チューズデーの母親ゾラ役には、アメリカが誇る名コメディアンのジュリア・ルイス=ドレイファスを抜擢。プスィッチ監督は、特にドレイファスの代表作で90年代のアメリカで爆発的人気を博し、国民的ドラマと謳われる「となりのサインフェルド」の大ファンだったという。
「ジュリアはとてもキャリアがあるので、ミニシアター系作品の上、長編映画監督デビュー、しかもロンドンで撮影するという本作に出演してくれるとは思ってもみませんでした。でも、コメディと感動、恐怖とドラマ、そのすべてを直感的にバランスよくこなせる俳優は彼女以外にはありえなかった。唯一の選択肢でした」とダメもとでオファーをしたと話す。
これに対し、ドレイファスは「脚本がとにかく魅力的で、すぐに出演を決めました。監督は高い知性と思慮を持ち合わせている人。だから、彼女と一緒に崖から飛び降りよう!と思えたんです」とプスィッチ監督を大絶賛し、デビュー作での主演を快く引き受け、これまでに経験したことのない難しい役柄に挑戦した理由について振り返る。コミカルな一面と哀しみとをないまぜとした母親の心情を繊細に演じてみせたドレイファスは、本作で新境地を開拓したと高く評価され、多くの称賛の声が贈られている。
試行錯誤を重ねて生み出された死を告げる鳥“デス”。そのビジュアル、コミカルな動きにも注目して『終わりの鳥』を鑑賞してほしい。
文/平尾嘉浩