パルクール風の階段飛び降りや雨の中のバレエ格闘戦!進化した『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』のアクションを解説

コラム

パルクール風の階段飛び降りや雨の中のバレエ格闘戦!進化した『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』のアクションを解説

アクションとドラマは不可分なもの

恋人を暴走族に殺された復讐を誓うミン・ガンフン
恋人を暴走族に殺された復讐を誓うミン・ガンフン[c]2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED

今回の悪役“ヘチ”は、言うなればナイフや剃刀の代わりに格闘技を殺しの道具として用いるシリアルキラーだ。前作のチョ・テオにとっては弱者を屈服させる支配欲のメタファーでもあったが、ここでは純然たる “凶器”。ゆえにサイコスリラー的テイストが色濃く、スプリットフィルターを多用したブライアン・デ・パルマ風の構図も、そのムードを増幅させている。

この人物像から思い出すのは、アベル・フェラーラ監督の『処刑都市』(84)だ。80年代のニューヨークを舞台に、ヌードダンサーを標的にする連続暴行魔と、元ボクサーの用心棒が対決する。この犯人の設定が、人体の急所を知り尽くしたマーシャル・アーツの達人。ご丁寧に犯行を自作小説の元ネタにしているところは『セブン』(95)のジョン・ドウも思わせるが、『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』のクライマックスも、『セブン』に通じる“究極の選択”シチュエーションが用意される。

 『セブン』にも通じる衝撃的なクライマックスが?!
『セブン』にも通じる衝撃的なクライマックスが?![c]Everett Collection / AFLO

“ヘチ”は、自らの暴力衝動、正義感、大衆を操作する快感を満たすために犯行を繰り返す、現代のヴィランだ。彼の過去はあまり語られないが、そのパーソナリティはアクションシーンを含め、随所に細かく描き込まれている。たとえば南山タワーで “偽ヘチ”に追いついた彼が「路線変更」する戦慄の瞬間。あるいは屋上でのバトルで何度もミスリードを仕掛けようとする悪辣さ。それぞれのアクションシーンに、キャラクタ一性とドラマ性を手抜かりなく連携させる演出こそ、リュ・スンワンの真骨頂だ。ドチョルの性格、パク・ソヌの性格を、ぜひ各場面に見つけて楽しんでほしい。

ドチョルとソヌが追う犯人“ヘチ”の正体は…?
ドチョルとソヌが追う犯人“ヘチ”の正体は…?[c]2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED

アクションとドラマを同等に扱い、双方が互いに有機的に機能することが、映画の仕上がりを決定する。その“活劇の鉄則”を、リュ ・スンワンは知り尽くしている。そんな映画人としてのベテランぶりが特に顕著に現れているのが、この「ベテラン」シリーズではないだろうか。


文/岡本敦史


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