社会のはみ出し者を温かく見つめてきたポン・ジュノの真骨頂『ミッキー17』など週末観るならこの3本!

コラム

社会のはみ出し者を温かく見つめてきたポン・ジュノの真骨頂『ミッキー17』など週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、使い捨てワーカーとして働く主人公の逆転劇を描くポン・ジュノ監督最新作、女性となったメキシコの麻薬王と3人の女性の姿を描くミュージカル、ロビー・ウィリアムスの波乱万丈な人生を映すミュージカルの、監督のこだわりが感じられる3本。

演技派たちの壊れっぷりも楽しい…『ミッキー17』(公開中)

【写真を見る】何度も生まれ変われる夢のような仕事を手にしたミッキーだったが…(『ミッキー17』)
【写真を見る】何度も生まれ変われる夢のような仕事を手にしたミッキーだったが…(『ミッキー17』)[c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『パラサイト 半地下の家族』(19)に続くポン・ジュノの最新作は、生きるために死に続ける貧困青年の物語。人間コピーが可能になった近未来、貧困青年ミッキーは闇金業者から逃げるため実験用のモルモット“エクスペンダブル(使い捨て)”として植民惑星行きの宇宙船に乗り込んだ。

特技も資格も持たないため命を切り売りする青年を描いた本作は、社会のはみ出し者を温かく見つめてきたポン・ジュノの真骨頂。コピーのミスからドタバタ劇へと展開するコメディだが、世界的に貧富の差が広がりゆくなかでミッキーの搾取されっぷりは笑いに転化しなければ痛々しくてみていられない、ということか。ひとり2役でミッキーを演じたロバート・パティンソンはじめマーク・ラファロ、トニ・コレットら演技派たちの壊れっぷりも楽しいポン・ジュノらしいヒネリを効かせた作品だ。(映画ライター・神武団四郎)

監督の作品歴のなかでも異色…『エミリア・ペレス』(公開中)

”女性”として生きることを決意した麻薬王と、3人の女性たちの姿を描く『エミリア・ペレス』
”女性”として生きることを決意した麻薬王と、3人の女性たちの姿を描く『エミリア・ペレス』[c] 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA

優れた脚本家として創作活動をスタートさせたジャック・オーディアールは、監督作において必ず「物語と語り口の冒険」に挑んできた。今回はメキシコを舞台に「外国語」、「ミュージカル」、「女性たちのドラマ」、「現実の犯罪問題」といった要素を取り揃え、72歳にして最も過激で痛快な冒険を展開してみせる。もしかしたら、同じく脚本家から監督に進出したパク・チャヌクや、アレックス・ガーランドの活動に刺激を受けたのかもしれない。

血と暴力にまみれた毎日を送っていたメキシコの麻薬王が「女性になりたいんだ」と告白する序盤から、結末までまったく先読みを許さない作劇の妙は、オーディアールの真骨頂。それにしてもミュージカルとは!ドミニカ共和国育ちのゾーイ・サルダナが久々の母国語で披露する演技力と歌唱力が圧倒的だ。奇抜な設定と奔放なストーリーテリングで観る者を驚かせつつ、全人類に向けたメッセージを直接投げ込むような力強さは、監督の作品歴のなかでも異色。いわば「この世界を毒してきた男性中心主義よ、永遠にさらば!」という宣言なのだが、70代を迎えた巨匠が残り時間を意識しつつ放った切実な「預言」だと思えば、我々は厳粛に受け止めなくてはならない。

タイトルロールを演じたカルラ・ソフィア・ガスコンは、菩薩のような優しさと「ちょいワル」な危なっかしさを同時に湛え、この難役に絶妙なリアリティを与えている。人は完全に過去を捨て去ることができるのか?という作品のテーマを、現実でもなぞったような舌禍事件で予想外のキズ痕を残してしまったが、そんな人生の苦味も含めて本作の一筋縄ではいかない素晴らしさを味わってほしい。(ライター・岡本敦史)

一人のアーティストの“真実”が見えてくる…『BETTER MAN/ベター・マン』(公開中)

ポップスター、ロビー・ウィリアムスが主人公の物語『BETTER MAN/ベター・マン』
ポップスター、ロビー・ウィリアムスが主人公の物語『BETTER MAN/ベター・マン』[c]2024 PARAMOUNT PICTURES. All rights reserved.

人気ミュージシャン、ロビー・ウィリアムスの外見を、彼だけサル(チンパンジー)の姿で描くという大胆奇抜なチャレンジも、冒頭の少年時代から違和感の少なさに逆に驚く。“子猿”ロビーの目の表情や、自然な身のこなしが瞬時に日常風景に溶け込んでしまうのは、最上級の視覚効果であり、映画のマジックなのだと実感するはず。子ども時代からのアーティストへの憧れ、テイク・ザットのメンバーとしての爆発的人気、そこからいまに至る波乱の半生を大ヒット曲のステージパフォーマンス、ミュージカルシーンを絶妙に盛り込んでテンポよく展開。後半はじっくりとロビーの内面に迫ったりもして、一人のアーティストの“真実”が見えてくる。ミュージシャン映画の魅力を備えつつ、家族との関係に『リトル・ダンサー』(00)などイギリス映画の伝統も感じる一作。

マイケル・グレイシー監督が『グレイテスト・ショーマン』(17)での経験を生かした見せ場はいくつもあるが、なかでもロンドンのストリートでのワンカットに見える4分ものナンバーには、ミュージカル映画の醍醐味が凝縮。豪快で美しいカメラワーク、テイク・ザット5人のダイナミックなダンスと衣装の早替わりというノンストップな勢いは、何度もリピートで体験したくなる。(映画ライター・斉藤博昭)


映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

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