『片思い世界』の大胆な設定と驚きの展開、俳優4人の魅せる演技、坂元裕二×土井裕泰監督ワールドの凝縮…映画人たちがネタバレなしでレビュー!
広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務め、横浜流星が出演する『片思い世界』が4月4日(金)公開となる。本作は、『花束みたいな恋をした』(21)の土井裕泰監督と脚本家の坂元裕二が再タッグを果たした注目の最新作。「これだけは残しておきたいお話があるんです。心を込めて、人が人を思う時の美しさを描きたいと思います。まぶしすぎて目を逸らしたくなるけど、やさしい風に包まれたような、そんな映画にしたいと思います」とコメントを寄せる坂元が新たに書き下ろした本作は、登場人物それぞれが抱える、届きそうで届かない“片思い”の模様を描いたストーリーだ。
現代の東京の片隅で、古い一軒家で一緒に暮らす美咲(広瀬)、優花(杉咲)、さくら(清原)。仕事や学校、バイトに行ったり、家族でも同級生でもないけれど、お互いを思い合いながら他愛のないおしゃべりをする、楽しく気ままな3人だけの日々を過ごしている。もう12年、強い絆で結ばれているそんな彼女たちの、誰にも言えない“究極の片思い”とは?
本稿では「ストーリーと“片思い“というテーマについて」「キャスト4人が魅せる演技」「脚本家・坂元裕二×監督・土井裕泰の再タッグ」という3つの切り口から、『片思い世界』の魅力をクロスレビューでひも解いていく。
大事なことを改めて教えてくれる普遍的な物語…大胆な設定と驚きのストーリー(ライター・石塚圭子)
『片思い世界』というタイトルと、3人の女の子のかわいらしいビジュアル。きっと三者三様のせつなくて、甘酸っぱい片思いラブストーリーが繰り広げられる作品なんだろうなぁと思いながら観ていると、徐々に明らかになる、想像の斜め上をいく大胆な設定と驚きの展開。え?片思いって…そういう意味!?
一見、従来のイメージに近い片思いをしているのは、3人の中で一番年上の美咲である。通勤バスの中で会う、寝グセ頭がトレードマークの気になる彼。優花とさくらに、告白すべきだと言われても、美咲は思いを胸に秘めたまま、ただ静かに彼を見つめている。そして、そんな美咲の片思いの背景には、傍目からはうかがい知れない物語があることが分かる。
優花もさくらも、片思いの感情を抱えながら生きているという点では美咲と同じだ。本作の片思いは、いわゆる恋愛感情だけじゃない。友達や家族を大好きだと思う気持ち、一緒にいたいと思う気持ち、心配する気持ち、応援する気持ち…さらに悲しみや憎しみ、後悔、嫉妬といった感情も含めて、本作には誰かが誰かを思う光と影の様々な気持ちが、いろんな形で描かれていて、そのどれもが胸を打つ。
誰だって、相手の存在が大きければ大きいほど、自分の思いを簡単には伝えられない。だからこそ、最初はあきらめていた彼女たちが、なんとか思いを伝えようと奮闘する健気な姿に勇気をもらえる人は多いはず。そして終盤、3人が大切な人たちの“本当の気持ち”に気づいていく数々のシーンには思わず涙がこぼれてしまう。
もう一つ、本作でとても魅力的だったポイントは、12年前のとある出来事をきっかけに、長年一緒に暮らしてきた女子3人の同居生活の丁寧な描写である。住居はかつて画家が住んでいたというノスタルジックな雰囲気の一軒家。アットホームで居心地のよさそうなリビングの柱には3人が背比べをした印があり、本棚やぬいぐるみなど、インテリアのあちこちにそれぞれの個性や趣味が反映されているのが楽しい。手作りのバースデーケーキ、朝のお弁当の支度、丸テーブルの食卓を囲んだ夕ごはんなど食事シーンも多く、日々の暮らしや食べることを大切にする3人からは、前向きに生きようとする力が伝わってくる。
互いを思いやり、何気ない日常を楽しむという姿勢が、人生を支えてくれること。どんな運命も受け入れる強さと柔軟さを持つこと。たとえ、言葉にできなくても、誰かを思う気持ちそのものに価値があること。たくさんの大事なことを改めて教えてくれる普遍的な物語だ。