心ときめく時間がいつまでも続く『ウィキッド ふたりの魔女』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、正反対な2人の魔女の友情を描く不朽のミュージカルの実写化、身分違いの恋を21世紀風に映すロマンティック・コメディ、少女の視点で“学校”を見つめるヒューマンドラマの、個性あふれる3本。
「ウィキッド」の物語を知る人にもわかりやすい作りが好印象…『ウィキッド ふたりの魔女』(公開中)
人気ミュージカルの映画化なので、期待を高めて観る人も多いと思うが、おそらくオープニングでその期待を軽々と超えてくる。あまりに大スケールで美しいオズの国がスクリーンに広がり、1939年の名作『オズの魔法使』とのリンクもほどこされ、一気に世界に没入できるからだ。主人公2人、エルファバとグリンダの大学生活は青春ムービー的に共感を誘いながら、要所の魔法によるスペクタクル感、感情が湧き上がってのミュージカルシーンと、エンタメ要素が過不足なく配され、心ときめく時間がいつまでも続く。
成功の最大の要因は、主演2人の役との完璧な一体感かも。ミュージカル界の大スター、シンシア・エリヴォは、自身の能力と葛藤し、終盤は激しいまでの感情を露わにするなどエルファバを丁寧に名演。そしてグリンダ役のアリアナ・グランデは、ミュージカル用の発声を学び、これまでの歌い方を一変。なによりピンク色の世界で躍動する彼女に、観ているこちらのテンションも急上昇する。名作へのオマージュの数々や、舞台版へのリスペクトも込めた特別な演出を発見しつつ、この映画で「ウィキッド」の物語を知る人にもわかりやすい作りが好印象だ。(映画ライター・斉藤博昭)
多様な解釈が可能なラストが、さらに後ろ髪を引く…『ANORA アノーラ』(公開中)
第77回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞を皮切りに、第97回アカデミー賞5部門受賞に至るまで今年の賞レースを席巻。授賞式でのショーン・ベイカー監督の映画愛に溢れた受賞スピーチ、インディーズ映画の復権に興奮した人も多いだろう。
ニューヨークのストリップダンサー、アノーラは、ロシア人富豪の御曹司イヴァンと出会い、高額で7日間の“契約彼女”を引き受ける。盛り上がった2人は衝動的にラスベガスで結婚するが、彼の両親が激怒し―。本作をけん引するのは、アノーラのキャラとその魅力。キュートさは見ての通りだが、プロフェッショナルさ、誇りさえ感じられる仕事ぶり、機転や賢さは惚れ惚れするほど。一方、世間知らずのボンボンだが、イヴァンの純真な無邪気さも可愛い。前半は、そんな2人の享楽的なパーティ三昧が活写される。一転、後半は親が送り込んだ“別れさせ屋の用心棒”とアノーラの対決がはじまる。案の定イヴァンはあっさりトンズラするが、アノーラは想像以上の強さとしたたかさで用心棒をてんてこ舞いさせる。それがユーモラスな様相を呈し始める。果たしてどう決着がつくのか。
終盤の一瞬、アノーラの想いにつと胸を突かれる。しかし、その“習癖のように身に染みついた言動”を起点とする多様な解釈が可能なラストが、さらに後ろ髪を引く。セックスワーカーや貧困層に光を当て続けて来たベイカー監督が、凛としたアノーラ像によってまた歩を進めた。オスカー女優となったマイキー・マディソンをはじめ主要キャストみなが、手垢がついていないだけに一層、新鮮な魅力を存分にスクリーンに刻みつけている。(映画ライター・折田千鶴子)
学校教材に使ってもいいほどの没入度と共感性に優れている…『Playground /校庭』(公開中)
7歳の少女が目覚ましい変化を遂げていく姿を、こんなにも生々しく劇的に描いた作品は、ちょっとほかに見当たらないのではないか。主人公ノラが不安と緊張でいっぱいの小学校入学初日を過ごす最初の数分間は、観客の記憶の扉をあっという間にこじ開けてしまう驚異的リアリティに満ちている。観ているほうが心配になるくらい真に迫った子役の演技、子ども目線で肉薄するカメラワークが圧倒的で、ベルギーの新鋭ローラ・ワンデル監督の才気をまざまざと感じさせる。
最初はひたすら危なっかしかったノラは、そこから友人と出会い、苦手なことを克服し、徐々に凛々しく成長していく(それに付随してアングルやフォーカスが変化していくところも細かい)。女の子ってすごいなぁ、と感心しながら眺めてしまうが、なにもかも順風満帆というわけにはいかない。最初はノラのほうが依存気味だった3つ上の兄アベルが、学校でいじめられていると知ったときから、彼女はより痛ましい迷いやジレンマ、染まりたくない感情と向き合う羽目になる。無防備で理不尽な世界で、肉親が傷つけられることの苛酷さは、あらゆる人が知るべきだろう。その追体験装置として、本作は学校教材に使ってもいいほどの没入度と共感性に優れている。
小学校とは、人が初めて出会う社会の縮図である…といったようなフレーズも思い浮かぶが、はたしてこんなに残酷な世界が「社会の縮図」であっていいのだろうか?とも思ってしまう。学校のあり方、ひいては現代社会のあり方についても考えさせる、72分とは思えないほど濃密な一作だ。(ライター・岡本敦史)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼