『FLEE フリー』の監督が語る、この映画の”必然性”。親友の過酷な難民体験をアニメーションでつづる意義
「映画が社会に変化を起こす力があると、私は信じています」
ラスムセン監督が語るとおり、シンプルな2Dアニメーションで描かれたアミンの少年時代は、時代や国を超えて感情移入しやすい作りになった。そして難民という要素に加えてもうひとつ、アミンは人生の重大な問題に直面する。アフガニスタンの少年時代にスターのジャン=クロード・ヴァン・ダムへ熱い想いを寄せ、同性への愛を自認したアミンは、デンマークでパートナーと出会いつつも、これからの人生に迷いも感じている。『FLEE フリー』ではそんな側面にもラスムセン監督は誠実に焦点を当てている。
「アフガニスタンで同性愛者として堂々と生きることは困難です。じつは先日も私の元に、アフガニスタンから助けを求めるLGBTQ+の声が届きました。ここデンマークでは同性婚が法的に認められ、とくに都市部ではみんなに祝福されています。『FLEE フリー』が完成した際も、私はアミンと彼のパートナーと一緒に作品を観ました。アミンは『自分のことを描いているので、これがすばらしい映画かどうか判断できない』と正直に告白しましたが、その後、作品への反響から、難民であり同性愛者である自分が、同じような境遇で悩む何百万という人たちの代弁者になったことを喜んでいるようです。今も日常生活の写真をよく私に送ってきてくれたりしますから」
現在、日々のニュースを見るにつけ、世界はつねに新たな難民も生み出しているのが現状だ。『FLEE フリー』をウクライナ情勢と重ね、より胸が締めつけられる人も多いに違いない。このあたりはラスムセン監督も、似たような感覚になるという。
「『FLEE フリー』では30年前のアフガニスタンを描いたのですが、昨年(2021年)の夏、アフガニスタンが同じような悲惨な状況になってしまいました。そしてウクライナでも、あのような事態になりました。だからこそ私は強く主張したいのです。もし自分の国から逃げて世界の反対側へ行ったとしても、そこで希望を見つけ、新たな人生を築き始めることができるのだと。そして映画がその後押しをして、社会に変化を起こす力があると、私は信じています」
一本の映画で世界情勢を変えることは難しい。しかし観た人の心に深い感動が刻み込まれれば、やがて社会は静かに動いていくかもしれない。そんな希望を『FLEE フリー』は感じさせてくれるはずだ。
取材・文/斉藤博昭