「観る側の人生と地続きに繋がってくれる映画」『見上げてごらん』で初共演、森川葵&川上友里が芝居にのせた“実体験”とは?
冨永昌敬監督の『白鍵と黒鍵の間に』(23)や片山慎三監督の『雨の中の慾情』(24)ほか、近年は作家性の強い作品に出演が続いている森田剛が大御所マンガ家の万年アシスタントを演じたヒューマンドラマ『見上げてごらん』が、10月30日(金)に劇場公開を迎える。
約20年もの間、長期連載マンガ家・吉住(武田鉄矢)のアシスタントを務めてきた土屋輝一(森田剛)。人気声優の妻・莉花(松本まりか)とは別居状態が続き、一足先にデビューした後輩(伊島空)がブレイクするなど、モヤモヤした日々が続いていた。そんななか、連載が終了。土屋は編集者の潮田ユキ(森川葵)・新人マンガ家の山田ぽてと(川上友里)と共にマンガ作りに乗りだすが…。
ものづくりを志してはいるが熱血とは程遠い人々の愛すべき格好悪さを、親しみを込めて描いていく本作。是枝裕和監督率いる映像制作集団「分福」の森本晶一と佐藤快磨がW監督を務めた。Netflixシリーズ「ガス人間」や映画『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』(21)といった作品で個性的な人物に扮してきた森川葵、大人計画やNODA・MAPといった舞台に加えて「エルピス-希望、あるいは災い-」「じゃあ、あんたが作ってみろよ」といった人気ドラマに出演してきた川上友里は、『見上げてごらん』との時間をどう過ごしたのか。本編同様の緩やかな対談形式で振り返っていただいた。
「“この感覚わかるな”と思う登場人物がたくさん出てきました」(森川)
――自分もものづくり業界に身を置く人間として、本作で描かれる“あるある”の宝庫に悶絶しました。お2人はどういった部分に興味を抱かれましたか?
森川葵(以下、森川)「まず全体を通して、皆がものすごく熱くないのがすごく心地よかったです」
川上友里(以下、川上)「“熱くな~い?”じゃなく“熱くない”ってことだよね」
森川「そうです(笑)。映画ってどうしてもまっすぐで情熱あふれる主人公にフィーチャーされることが多いじゃないですか。対して本作に出てくるのは、皆まっすぐだけど熱くなりきれない人たちばっかり。でもきっと現実もそうだと思いますし、私にとって“この感覚わかるな”と思う登場人物がたくさん出てきました」
川上「私自身も森田剛さん演じる土屋と同じ40代なので、とても身近に感じられました。実は撮影時、私もバイトしながら俳優活動を行っていたんです。それがすごく苦しくて、その気持ちを演技に乗せました」
――劇中、山田ぽてとが「電柱に登ってました」とマンガ家を志すまでの職歴を話すくだりがありますが、川上さんの実感も込められていたのですね。
川上「私自身、あの時期は正々堂々と『私は役者です』と言える状況ではありませんでした。それがすごくもどかしくて、ぽてとと同じだなと思いました」
――森川さんが演じられた潮田の「マンガが好きだけどほかの編集者ほど熱量がないし、詳しくない」という設定はまさに、“熱くなりきれない”部分ですね。
森川「潮田のチアダンス仲間を演じられた祷キララさんがマンガがとてもお好きらしくて、監督の森本晶一さん・佐藤快磨さんと4人でいた時に熱くマンガ談義をされていたんです。ただ私はその作品も作家さんも存じ上げず、上手に話を合わせながら一緒に笑っていた瞬間がありました。その時に“あっ、これが潮田の感覚だ”って(笑)。そういう意味では、私も川上さんと同じく実体験をお芝居に乗せました」
川上「知らないくせに話に入れないもんね」
森川「そうなんです。皆さんに詳しくないことを気づかれないように、話に入りすぎないようにしていました(笑)」
「演じる役のバックボーンを勝手に考えて埋めてゆくタイプ」(川上)
――そんな“リハーサル”があったのですね(笑)。となると、潮田とぽてとを演じるうえでのご苦労や試行錯誤はそこまでなかったのでしょうか。
川上「ただ、マンガを描けるように見せる手さばきは大変でした。撮影前に指導いただいたのですが、ものすごく細かくて私には絶対できないと思いました。線の積み重ねがどうして影に見えるのか、いまだに全然わかりません」
森川「長い時間をかけて培われてきているからこそ、到達できるのでしょうね」
川上「自分なりに一生懸命やりましたが、何回かやっただけでは到底表現できないから後ろめたい気持ちはありました」
――いち観客としては、山田ぽてとは初登場シーンからインパクト抜群で人間味があり、すぐ好きになってしまいました。
森川「私もその場にいましたが、ぽてとが『もっと若い子が来ると思ってました?』と自分からツッコむシーンが大好きです。服装も含めてキャラが立っていたし、一瞬にしてその場の空気を持っていっちゃう感じがおもしろかったです」
川上「両監督のイメージをベースに、自分が考えてきたものを半々ぐらいでやってみました。私は本作に限らず、演じる役のバックボーンを勝手に考えて埋めてゆくタイプです。きちんと埋まったら初めて演じられるといいますか。例えばぽてとだったら、お母さんはいつ亡くなったのかなども自分のなかでは設定していました」
