SUPERCAR中村弘二を直撃!劇場アニメ『どこよりも遠い場所にいる君へ』劇伴制作で悩んで導き出した答え「“聖域”を教会の鐘やベルを連想する音で表現」
「クリエイターそれぞれの感性がそのまま入っている」
和田純一監督(「サクガン」「HIGH CARD」など)や音響監督のはたしょう二(「薬屋のひとりごと」「葬送のフリーレン」など)とのやり取りのなかで、本作の劇伴制作には明確なルールと方向性が提示されていた。その一つが“ピアノの封印”だった。
「作中でピアノという楽器が物語上の重要なキーとして使われるため、『劇伴側ではあえてピアノを使わないでほしい』というオーダーがありました。加えて、監督からは『見方によってはJホラーのような不気味さや怖さを感じるシチュエーションもあるけれど、ホラー寄りのトーンにはしたくない』という指示も受けていました。大きく意識したのはこの2点ですね」。
劇中では、ピアニストの小瀧俊治による演奏曲や、主題歌&劇中歌を手掛けるシンガーソングライター、とたによる楽曲も存在感を放つ。劇伴制作時にそれらの楽曲はまだ完成していなかったというが、中村はそれぞれの音楽が独立して存在することの美しさを感じている。
「僕が劇伴を作っている段階では、ピアノ曲や主題歌はまだ耳にしていませんでした。あとから作品として合わさったものを観た時、無理に連動させているというよりは、それぞれのクリエイターがこの作品のために書いた感性がそのまま入っていると感じました。いろいろな人の感性が混ざり合うのは、映画としてすごくよい形だと思います」。
「オーケストラや弦楽曲は生の音になった時にどう響くかというワクワク感がある」
作曲にあたり、音楽メニュー(演出意図の設計図)に沿って一つ一つのシーンに音を落とし込んでいった中村。30本以上の楽曲のなかで特に試行錯誤を重ねたのが、主要キャラクターの一人である高津(声:玉木宏)のアトリエで流れる楽曲だった。
「一番時間がかかり、どう表現すべきか悩み抜いたのが高津のアトリエのシーンです。彫刻家である彼が、複雑な想いを込めて作り上げた白い女性像に対してどういう感情を抱いているのか。それを音でどう表現するのかという部分ですね。僕はあのアトリエを、高津にとっての“聖域”であり“教会”のような祭壇的な空間だと捉えました。そのため、教会の鐘やベルを連想させるような音で構成して、“教会っぽさ”を意識して作っていきました。監督にもすんなり受け入れてもらえました」。
物語中盤、和希とヒロインの七緒が海岸沿いの道路を自転車で走り抜け、虹を見上げるエモーショナルなシーンが登場する。ストリングス(弦楽)を配した壮大なメロディが印象的で、本作のなかでも特に感動的なシーンになっている。
「作品にとっても重要なロングシーンで、『自転車で走る』『虹を見る』『2人が笑い合う』という3つのポイントがありました。オーケストラや弦楽曲の制作は普段の曲作りとは違って、実際に生の音になった時にどう響くかというワクワク感があっておもしろいんです。自分で書いたスコアを編曲の方にチェックしてもらい、フィードバックを受けながら調整して現地で収録する。オーケストラの制作は毎回、すごく楽しい刺激がありますね」。
