『ヒメアノ〜ル』から『mentor』まで…“人間の業”を描く、吉田恵輔ワールドを一気に振り返る!
『月』(23)で第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した磯村勇斗と、「Aぇ! group」の末澤誠也がダブル主演を務める『mentor』(10月16日公開)。過去に囚われたまま大人になった2人の青年と、彼らにすべてを奪われた男の再会を描く本作を生みだしたのは、“人間描写の鬼”と称される吉田恵輔監督。本作の公開に備え、これまで吉田監督が手掛けた、観る者の心を深く揺さぶる傑作たちを振り返っていこう。
森田剛が怪演!トラウマ必至の『ヒメアノ〜ル』
現在の吉田監督作品のイメージを確立したのは、「行け!稲中卓球部」や「ヒミズ」などで知られる古谷実の同名コミックを実写映画化した『ヒメアノ〜ル』(16)だろう。清掃員の岡田(濱田岳)と先輩の安藤(ムロツヨシ)、カフェ店員のユカ(佐津川愛美)の平凡な日常が、森田正一(森田剛)という男の登場によって惨劇へと変化していく様が描かれる。
それまでのパブリックイメージやアイドルとしての枠を完全に脱ぎ捨てた森田剛の、感情を失った瞳と虚無的な佇まい。そして過酷な過去によって心を破壊された彼が、凶行の合間にふと見せる「フツーの日常」への儚い憧れ。逃れられない惨めさと歪んだ人間の哀愁によって、森田の俳優としての才能を解き放つと同時に、観客の心に決して消えない爪痕を残した。
狂気と欲望がうごめく愛憎劇『愛しのアイリーン』
吉田監督が独立系映画製作・配給会社の「スターサンズ」とタッグを組み、「ワールド・イズ・マイン」の新井英樹による同名コミックを映画化した『愛しのアイリーン』(18)も、吉田のポテンシャルが発揮された“劇薬”のような一本。
40歳まで恋愛経験のない岩男(安田顕)がフィリピンで出会った貧しい少女アイリーン(ナッツ・シトイ)を連れて極寒の農村に帰省したことから、人間の欲望と愛執が暴走する過激な狂騒劇が幕を開ける。性欲と孤独に翻弄される男の惨めさを生々しく体現した安田はもちろんのこと、彼の母親役を演じた木野花の狂気が炸裂した壮絶な怪演は大きな話題を集めた。
“正義”を振りかざして傷つけあう壮絶な人間ドラマ『空白』
スーパーでの万引きを疑われた中学生の少女が車にはねられて亡くなった事故をめぐり、その真相を追うべく怒りを狂暴化させる父親(古田新太)と、猛烈なバッシングに追い詰められていく店長(松坂桃李)の姿を通し、社会の不寛容さを浮き彫りにしていく『空白』(21)は、吉田監督自らが書き下ろしたオリジナル脚本作だ。
娘の死を受け入れられずに暴走する父親を演じた古田は、威圧感の裏に「娘に向き合わなかった深い公開」をにじませ、その悲しみの深さを圧倒的な迫力で叩きつける。対する松坂も、気弱で逃避的な店員の追い詰められた心情をリアルに表現。吉田監督の脚本力と演出力の両面から存分に味わえると同時に、観客もまた“当事者”としての自問を迫られることになるだろう。
