『ヒメアノ〜ル』から『mentor』まで…“人間の業”を描く、吉田恵輔ワールドを一気に振り返る!
母親の泥臭い執着と狂奔を描きだした『ミッシング』
石原さとみが、それまで培ってきたイメージを完全に封印し、第49回報知映画賞主演女優賞や第48回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞するなど新境地を開拓した『ミッシング』(24)。愛する娘の失踪に直面した紗織里(石原)が、SNSでの誹謗中傷や夫(青木崇高)とのすれ違い、薄れていく世間の関心に対する焦りから“壊れていく”姿が描かれていく。
同作が鋭く照射するのは、悲劇に群がる世間の無慈悲さと、正気を失うほど追い詰められて誰かを激しく責め立てずにいられない主人公自身の身勝手さと醜さ。それでも決して消えない、愛ゆえの葛藤と、暗闇の底でかすかに差し込む光。人間の弱さを包み隠さずに描くことで、切実なドラマと主人公の感情の揺らぎが際立ち、観客の胸を強く締め付ける一本に昇華していった。
キーワードは“赦し”…3人の男の歪な関係を描く『mentor』
そして最新作『mentor』もまた、吉田監督の唯一無二の感性が観る者の感情をかき乱す作品だ。少年2人が起こした無邪気な花火遊びが原因の火事で、アパートが全焼。15年後、拓海(末澤)は過去の自分が引き起こした火事で妻子を失った埜本(綾野剛)と偶然の再会。埜本を“メンター”として慕い、急速に距離を縮めていく。一方もうひとりの少年、龍之介(磯村)はアーチェリー選手の夢を追い、過去の罪の意識に蓋をして生きてきた。拓海が埜本に触発されて謝罪にのめり込むなか、龍之介は不気味なほどに優しすぎる埜本に違和感を覚えていくことに。
本作で個人としての本格映画デビューを飾った末澤が生々しく体現する、“赦し”にすがり“謝罪”に魅入られていく純粋無垢な青年の危うさと儚さ。アイドルとしてのオーラを消し去り、泥臭く追い詰められていく熱の入った演技で鮮烈な印象を植え付ける。また、磯村も冷徹さの裏に隠した、じわじわと忍び寄る脅威に対する焦燥を繊細かつ大胆に表現。観客を得体の知れない緊迫感で呑み込んでいく。
磯村は「表現方法というのは自由なもので、どんな形でも成立するのだと、芝居の可能性も教えていただきました」と吉田監督の初タッグで、俳優としてのさらなる進化のきっかけを得たことを告白。末澤も「お芝居の方向性の伝え方が的確で、わかりやすくニュアンスでも言ってくださる。監督自身にも拓海っぽいところを感じる瞬間もあり、子ども心を持った方なんだなというのを思いました」と振り返り、「やっぱり天才です」と吉田監督の手腕を絶賛。
人間の愚かさや弱さ、哀愁を容赦なく炙りだし、日本映画界に衝撃を与えつづけてきた吉田監督が新たに送りだす『mentor』。主演2人の凄まじい熱演と、吉田監督の卓越したストーリーテリングと演出力に注目しながら、この静かな衝撃を受け止めてほしい。
文/久保田 和馬
※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記
