リーアム・ニーソンが“特別なスキル”がない男に惹かれた理由は?『ハードボイルド』で見せたアクション俳優としての新境地
『96時間』(08)や『プロフェッショナル』(24)など、常にアクション映画界の第一線で圧倒的な存在感を放ってきた名優リーアム・ニーソン。今年6月7日に74歳を迎えたニーソンの主演映画最新作が、『スノー・ロワイヤル』(19)のハンス・ペテル・モランド監督との再タッグ作『ハードボイルド』(10月9日公開)だ。1980~90年代ノワールの魂を受け継ぐ骨太な人間ドラマと、切れ味鋭いクライム・アクションを融合させた本作の魅力を、ニーソンが語る。
ボストンの裏社会で、かつて拳ひとつで成り上がった一匹狼の運び屋の男は、ボクシングの後遺症で記憶が徐々に奪われていく残酷な病に侵されていた。疎遠になっていた娘デイジーを訪ねるも、冷たくあしらわれてしまうが、あるきっかけで孫のドレと交流する時間を得る。やがて、男は長年身を置いた裏組織と対峙し、人身売買の闇から無垢な少女たちを救うため、命懸けの奪還作戦に身を投じていく。
今回演じた男について、ニーソンは「これまでアクション映画はたくさんやってきて、殴り合いも銃撃戦も山ほど演じてきましたよ。でも今回は、それ以上に、1人の人間をじっくり演じられるところに惹かれたんです」と、キャラクターの魅力に惹かれた様子。
「この男は長い間、自分の暴力によって食べてきました。褒められた人生じゃないけど、本人にとっては、それが仕事だった。そうやって生きるしかなかったんだろうね。でも家族のことになると話は別です。自分がいい父親じゃなかったことを、彼自身が一番よくわかっています。いや、よくなかったどころか、ひどい父親でした。そんな男が孫と出会って、心のどこかに小さな変化が生まれる。宗教的な意味じゃないけど、『なにとかやり直したい』『少しでも償いたい』という思いが芽生えてくるんです。そこが、この役の一番人間らしいところだと思います」。
ニーソン演じる主人公の名前は最後まで登場しない。エンドロールでも「Thug(チンピラ)」とだけ表記されている。
「もともと、映画のタイトルも『Thug』でしたが、実を言うと、私はあのタイトルのほうが好きでした。『Thug』という言葉には、この男が生きてきた人生がそのまま詰まっています。彼はフィリップでもジェイミーでもパトリックでもない、『ああ、あいつはチンピラだ』と、周りから、それだけで済まされてきた男なんです。すなわち、名前なんて必要ない人生だった。だからこそ、物語が進むにつれて、自分という人間を少しでも取り戻そうとする姿には胸を打たれるものがあります」。
そんな役どころは、ニーソンがこれまで演じてきた主人公とは、かなり印象が違うが、「そうですね。まず、この男には“特別なスキル”がない(笑)。ただの荒くれ者です。でも、それがおもしろかった」と語る。
「私はアイルランドやロンドンで育ったから、若い頃にこういう男たちを何人も見てきました。映画ほど極端じゃないにしても、暴力と隣り合わせで生きている人たちは実際にいましたし、怖い人たちでもありました。でも同時に、どこか寂しさも抱えているんです。そういう記憶が、この役には自然と重なっていました」。
男のひげや、革ジャン、彼が乗る赤いシボレー・シェベルもキャラクターを際立たせている。
「あれは脚本のトニー・ゲイトンが考えた人物像が土台になっています。監督とも、細かいところはいろいろ話し合いました。ただ、車については私に聞かないでほしいです。全然詳しくないんです(笑)。『どんな車に乗ってるんですか?』って聞かれたら、『黒いやつだよ』と答えるくらいですからね。でも、あの古いシボレーを見てエンジンをかけた瞬間、『これしかない』と思いました。少し調子の悪そうなマフラーの音まで含めて、この男そのものだった。彼は70年代を生きた男で、見た目だけじゃない、考え方も、生き方も、どこかあの時代から抜け出せずにいるんです」。
