映画『BOSS/ボス』日本最速試写会で、韓国ノワール映画の美学を引き継ぎつつコメディに昇華した魅力を解説「まぎれもない傑作!」「ずっと笑いっぱなし」
駐日韓国文化院とKDDI、日活、MOVIE WALKER PRESSの共同主催により、映画『BOSS/ボス』(10月23日公開)日本最速試写会が9月17日に開催された。韓国文化院での上映後にはティーチインが行われ、映画ライターの渥美志保、映画評論家の森直人が登壇し、本作の見どころを解説。「最初から最後までずっと笑いっぱなし」と渥美が語るとおりの軽妙な作品でありながら、様々な韓国映画やドラマからのサンプリングも感じられる奥行きのある仕上がりに、森は「まぎれもない傑作ですよ!」と熱く語った。
韓国で244万人を動員して、2025年年間興収第5位を大ヒットを記録した本作は、“ギャング組織の後継者争い”という韓国犯罪ノワール映画でおなじみのモチーフを大逆転させ、コメディ要素たっぷりに描く。次期ボスの座を巡る混迷が極まるなか、組織に潜入したものの身元バレバレのダメ警官も巻き込み、前代未聞の後継者譲り合い合戦が始まった。
「最初から最後までずっと笑いっぱなし」と感想を伝えた渥美。森も「ですよね」と微笑み、「ノワールをパロディにひっくり返したコメディになっている」と思い出し笑い。チョ・ウジン演じる主人公スンテの娘ミミのセリフ「ダサい」を挙げ、「パパがダサい」と正面から言うのがまずおもしろいと指摘。森が「チョ・ウジンがダサいと言われる。えー!みたいな。そこが結構大きいと思います」と作品に引き込まれるポイントに触れる。
本作の原案は香港映画であることから、渥美と森は韓国や香港における犯罪と国との関係性に触れつつ、ヤクザ映画の歴史を振り返る。渥美は「2000年代初頭は、古来のヤクザ組織が潰されることによって、それに対するノスタルジー、ちょっと背徳的なものをロマンチックに描くという映画が多かった。それが、2010年代になってくると、企業社会もより進んでいき、組織のなかでの個人が圧殺されていくという社会にどんどんなっていった。それを描いたのが『新しき世界』」と解説。森が「韓国ノワールのヤクザ的な美学を打ち出したものとしては『新しき世界』が最後くらいですよね?」と問いかけると、渥美が「あとは私も大好きな映画ですが、『悪いやつら』というチェ・ミンシクとハ・ジョンウの映画。麻薬の取引でしのぎをしていた頃の話ですけれど、個人が組織に殺されていくという話でしたね」と補足。
森は「『悪いやつら』は、1980年代までの政治権力のなかでヤクザという組織が働いていた時代のもの」と付け加え、「『悪いやつら』『新しき世界』以降は、韓国ノワール映画、ヤクザ映画が作られなくなってきた。そしたらこの『BOSS』が出てきたんですよね」とうれしそうにトークを展開。渥美はその背景について、2000年代には「オールイン 運命の愛」や「太陽をのみ込め」など、ヤクザをはじめとするアウトローの男性を主人公に据え、女性がそんな男性についていくような構図の映画やドラマが多かったと説明。しかし、「次第に韓国はコンプライアンスがすごく厳しくなった」といい、それに伴ってヤクザではなく刑事や検事を主人公にした作品が増えていったと語る。さらに、ヤクザは「国の悪い人」、つまり権力を持つ人物とつながることで生き延びる存在として描かれることが多くなったと、時代と共に変化してきた韓国作品の傾向を解説した。森も「マブリー(マ・ドンソク)の『犯罪都市』なんかは、割と典型的にその図式に乗っかる作品だと言えそうです」と頷き合っていた。
そして話題は『BOSS/ボス』へ。「役者がすばらしい!」と声を揃えた2人。渥美は「私はチョ・ウジン推しなんですが、初めて見た時は、なんて地味な顔のおじさんかと思っていました(笑)。でも、テレビシリーズでアクションを披露し初めて、アクションもできるんだと思って…」と明かす。「Netflixシリーズの『ナルコの神』で百想芸術大賞も受賞し、完全に映画の真ん中に立つ俳優になりました」と続けた渥美が「それ以降、チョ・ウジンはカッコイイ感じで!」と話すと森は「僕のなかでもカッコイイ人ですよ。笑いもできて悪役もできるオールラウンダー」と絶賛し、チョ・ウジンは「今回も真ん中に立ってカッコイイ役!」と推していた。
「今日来ている方には、チョン・ギョンホさん推しの方が多いですか?」と渥美が会場に問いかけると、「決め決めの二枚目の役より、ちょっと抜けた役、ちょっと隙があっておもしろ役が似合う!」とダンスに魅せられたガンピョ役のチョン・ギョンホの魅力を語り始める。「今回の役は宛て書きなんじゃないかなって思っています」と語った渥美。身元バレバレの潜入警官テギュ役を務めたイ・ギュヒョンのセルフパロディ的なシーンにも触れ、自身のキャリアを反映させた役どころに触れる場面も。
森は銀行でのシーンに、「現代の表象としていいと思った」と語り、「防犯カメラがあって、ボスのイ・ソンミンさん演じるテスが暴力で恫喝しようとしたら、銀行員が『ダメです』と止めるくだりはすごくいいと思いました」とピックアップ。「さじ加減がいい!」と続けた森は「ここまでダサい人がいたり、ちゃんとコメディにしているというところが、『BOSS/ボス』の振り切っているところだと思いました」と本作で感じた魅力を話した。
渥美は「やっぱりエンディングテーマ!」と微笑み、「TUBEの『ガラスのメモリーズ』(のカバー)がかかるじゃないですか。昭和を代表するヒットメーカーだけど、ちょっと言葉を選ばずにいうと、ダサかっこいい。この映画のトーンにぴったり」だと強調すると、森も「この映画はトンマナでいうと“ダサかっこいい”ですね」と共感し合っていた。渥美が「組織がなかったらヤクザやってられないんだなという感じがあるのが前時代のヤクザ。でも、スンテはやっていける!」と話せば、森は「(料理人の)スンテが店でみんなに飯を食わすというのは、新しいカリスマ性。ヤクザの伝統的な美学と、価値観を半分引き受けた上でアップデートしているようなおもしろさがありました」と現代にアップデートしたヤクザ像を描いているとも説明。2人は「自分は自立して生きていく、サバイブする才覚はあるけれど、下のことも見捨てない理想の上司のよう!」と意見が一致し、盛り上がっていた。
森が一番ハマったのはスンテの料理店に住み込みで働きながら「10年間、命懸けで情報を流してた」という実はバレバレの潜入捜査官のテギュだったそう。演じているのはイ・ギュヒョンだ。「なにもかもバレバレ。それがおかしくて。めっちゃファンになりました」と笑顔を見せていた。
たくさんあるお気に入りのシーンのなかでも、次期ボス候補の対抗馬のガンピョと、やる気満々だが人望ゼロなパク・ジファン演じるパノの一騎打ちが「ずっと笑いっぱなし」だったという渥美は「チョ・ウジンが真んなかにいて、残りの2人の見せどころを作ったのだと思うんだけど、ダンスしながらやっつけるシーンでのパク・ジファンのリアクション芸がすごくいい!チョン・ギョンホのダンスで笑い、パク・ジファンの顔芸で笑うみたいな感じでした」と思い出し笑いをしていた。
ティーチインの終盤にはモナキと純烈の酒井一圭が務めた日本語吹替版に触れる場面も。担当の割り振りに「なるほど」と思ったと話した森。2人は「コメディは字幕よりも吹替えのほうがいいかもしれない」とし、その理由については「情報が限定的になるから」「掛け合いがみっちり楽しめるから」とコメントしつつ、字幕版と吹き替え版で違った楽しみ方ができるとおすすめし、ティーチインイベントをしめくくった。
取材・文/タナカシノブ
