映画ソムリエ・東紗友美が考える、映画館で“一番いい席”。『映画ちいかわ』と『オデュッセイア』では選び方は違う?

コラム

映画ソムリエ・東紗友美が考える、映画館で“一番いい席”。『映画ちいかわ』と『オデュッセイア』では選び方は違う?

リンクをコピー

映画がふたりの間に共通の記憶をつくってくれる

映画館デートも、いまなお定番のデートのひとつ。
隣に座って同じスクリーンを見つめながら、上映中は無理に会話をしなくてもいい。そう考えると、映画館って、恋人との距離感がちょっとおもしろく表れる場所なのかもしれない。

では、恋人と観るなら、どこに座るのがいいのだろう。
カップルシートももちろんすてきだけれど、私はあえて、中央ブロックの少し後ろ寄りにある、普通の2席をおすすめしたい。
スクリーンに対してなるべく正面で、近すぎず、遠すぎない。映画そのものをしっかり楽しみながら、隣にいる人の気配も感じられる、ちょうどいい距離だ。

座席選びで今後の関係が決まる…?(写真は『ヒューゴの不思議な発明』より)
座席選びで今後の関係が決まる…?(写真は『ヒューゴの不思議な発明』より)[c]EVERETT/AFLO

そしておもしろいのが、座席の選び方には、その人との関係性まで少し表れること。
付き合いたてのカップルなら端の席を選んで、少しでも周囲から離れたいかもしれない。
反対に、長く一緒にいるふたりなら、通路側と中央側に分かれていても、もうなにも気にならないかもしれない。

「隣じゃなきゃイヤ」という人もいれば、「同じ映画を観られれば、少しくらい離れていても平気」という人もいる。それって、ちょっとおもしろい!
座席は、単なるスクリーンからの距離ではなく、その人が人とどんな距離を心地よいと思うのかまで、ほんの少し映し出しているのかもしれない。

映画デートのいいところは、ずっと会話をしていなくてもいいことだ。
隣にいる人と同じスクリーンを見つめ、同じ場面で笑ったり、息を呑んだりする。上映が終わったあとに「どうだった?」と話すまでの時間も含めて、映画がふたりの間に共通の記憶をつくってくれる。

映画館のマナーを守りつつ楽しみましょう(写真は『(500)日のサマー』より)
映画館のマナーを守りつつ楽しみましょう(写真は『(500)日のサマー』より)[c]EVERETT/AFLO

だから私は、恋人との映画なら「ふたりだけの特別な席」よりも、同じスクリーンを、同じ方向を向いて観られる普通の2席が好きだ。

少し話は逸れたが誰かと見る場合の映画館の座席は、人との距離を縮めるためだけにあるのではない。
その人と、どんな距離で同じ時間を過ごしたいのか。そんなことまで、教えてくれる場所なのかもしれない。

公開中の映画、あなたならどこに座る?

最後に現在上映中の作品で、私ならどこに座るかを考えてみました。
あくまで私の個人的なお話だ。

感動の人間ドラマ『私たちは、ちょうどいい。』を観る時も、私は通路側を選ぶ。
理由は単純。たぶん、泣くからだ。隣に人がいると「鼻水をすする音が聞こえたらどうしよう!」と現実に引き戻されてしまう。だから、片側だけでも人のいない席を選び、自分の感情に身を預けるための空間を作っておく。

『私たちは、ちょうどいい。』
『私たちは、ちょうどいい。』[c]2024 CHOSEN FAMILY, LLC All Rights Reserved.

同じ通路側でも、もう一本、いまなら私はこの席で観たい映画がある。
見えない娘 THE INVISIBLES』だ。
生まれつき透明人間の三女・ひかりと、その父、二人の姉。姿の見えない娘を含む家族の旅を描いた、とてもユニークで、そしてあたたかな作品だ。
私はこの映画を観て、「透明人間の映画」としても、「家族の物語」としても、これまでにあまり観たことのない新しい作品だと思った。

『見えない娘 THE INVISIBLES』
『見えない娘 THE INVISIBLES』[c]THE INVISIBLES Production Committee

だから、もしもう一度観るなら、私は通路側に座りたい。
映画の途中、誰かがふっと横を通り過ぎたら、
「……もしかして、いま、ひかりちゃんが通ったのかも」
なんて、想像してしまいそうだから。もちろん、そこに彼女がいるわけじゃない。でも、姿が見えないからこそ、観客の想像力が彼女の存在をつくっていく。映画館の通路が、ほんの少しだけ、映画の世界と現実をつなぐ場所になる。
そんな観方ができるのも、この映画ならではだと思う。

そして最後は、現在大ヒット上映中の超大作『オデュッセイア』。もう今年、映画館案件として外せない!
この作品に関しては、前後左右を考える前に、合言葉はただひとつ。
まず、IMAXで観てほしい。

『オデュッセイア』
『オデュッセイア』[c]2026 UNIVERSAL STUDIOS photo by Melinda Sue Gordon [c]Universal Studios. All Rights Reserved.

ノーラン監督が古代ギリシャの神話を圧倒的スケールで描き出した本作は、スクリーンでなにが起きているかを見るのではなく、世界そのものに入り込む体験だ。だからこそIMAXを選び、できれば中央寄りに座って、映像と音に全身ごと包まれてほしい。2800年前の神話の中に飛び込むと言う異次元の体験ができました。


その人の性格が反映する座席選び

思い返すと映画ライター仲間と話していると、「どの席が好きか」は驚くほど意見が分かれるのも、興味深い!
真正面から受け止めたい人。少し距離を取って俯瞰したい人。私のように自由を確保したい人。熱狂を共有したい人。
もしかしたら座席選びには、その人の「人生の立ち位置」が少しだけ映っているのかもしれない。

【写真を見る】あなたなら、どこに座る?映画ソムリエの勝手に座席心理テスト
【写真を見る】あなたなら、どこに座る?映画ソムリエの勝手に座席心理テスト

もちろん、これはあくまで私の勝手な分析なのだけれど(笑)

映画館はどの席に座っても楽しめるように設計されている。だから、どこに座っても正解だ。

でも、「今日はアクションに飛び込むから前へ」「誰かと熱狂したいから真ん中へ」と、気分によってあえていつもの席を変えてみる。
それは、いつもの自分の「立ち位置」から一歩踏み出し、新しい視点を手に入れる小さな冒険だ。

チケット予約の画面で、座席表を開く。
今日は、どこに座ろう。その小さな選択から、あなたの映画体験はもう始まっている。

さて、次の作品。あなたは、どこに座りますか?

 映画ソムリエの東紗友美
映画ソムリエの東紗友美

文/東紗友美

関連作品