一人二役に挑戦した『顔 -かお-』の演技が圧巻!“次世代の演技の神”パク・ジョンミンのキャリアをプレイバック
視覚障害を抱えながら篆刻家(印章を彫る芸術家)として名を馳せた父を支える息子が、40年前に失踪した母の遺体が発見されたことを機に、知らない“母”の顔と、その死をめぐる真実に迫っていく『顔 -かお-』(公開中)。本作は『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)のヨン・サンホ監督が2018年に発表した同名のグラフィックノベルを実写化したサスペンスミステリーであり、主演のパク・ジョンミンが、若き日の父と息子を一人二役で見事に演じ分け、その高い演技力で第62回百想芸術大賞の主演男優賞を受賞した。シリアスからコミカルな役どころまで変幻自在に演じ、韓国映画界では「次世代の演技の神」と言われている彼のキャリアを振り返ってみたい。
『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』で新人賞を独占
1987年3月24日生まれのジョンミンは高麗大学に進学するが自主退学して、韓国芸術総合学校映像院映画科へ。さらに演技科に転科し、劇団活動などを経て俳優の道へと踏み出した。2011年、『狩りの時間』(20)で知られるユン・ソンヒョン監督の『BLEAK NIGHT 番人』(10)で長編映画デビューを果たし、以後、映画、ドラマ、舞台などで着実にキャリアを重ねていく。
スポットライトを浴び始めたのは、2015年にイ・ジュニク監督の『空と風と星の詩人 尹東柱(ユンドンジュ)の生涯』(16)に出演してから。韓国の国民的詩人、尹東柱と、彼に大きな影響を与えた独立運動家の宋夢奎(ソンモンギュ)との青春を描いた作品で、ジョンミンは宋夢奎役を務めた。この役は彼にとっても大役であり、実在の人物を演じるうえでもかなりプレッシャーがあったとのちに述懐している。特に収監中の宋夢奎が面会に来た父親と顔を合わせるシーンでは、1か月で約12kgも体重を落とし、撮影3日前からは水もいっさい飲まずに臨んだという。そうして生まれた真に迫る感情演技は高く評価され、青龍映画賞をはじめ多くの新人賞を独占した。
イ・ビョンホンも大絶賛した「努力する天才」
さらに、『それだけが、僕の世界』(18)には自閉症スペクトラム障害を抱えながらもピアノの天才的な能力を持つサヴァン症候群の青年ジンテ役で出演。専門書などを読み漁り、当事者の気持ちについて考えを巡らせながら難役の表情や仕草を自然に演じたジョンミンだが、ジンテの台詞は「はい~」など短い言葉ばかり。そこに様々な意味を込め、それを観客に伝えてしまう表現力が凄まじかった。それだけでなく、劇中でピアノを弾くシーンもジョンミン自らが演じており、楽譜も読めなかったところから6か月に及ぶ猛特訓の末に演奏をマスター。ジンテとしてオーケストラと一緒にピアノを弾く姿が大きな感動を呼んでいる。そんな彼の役に向き合う真摯な姿勢を兄役で共演したイ・ビョンホンは大絶賛し、以来、「努力する天才」と称されるようになる。
次々と名演技を更新していくパク・ジョンミン。殺し屋ファン・ジョンミンVS彼を仇と狙う追撃者のイ・ジョンジェが苛烈なノワールアクションを繰り広げる2020年の『ただ悪より救いたまえ』では、物語のキーパーソンとなるトランスジェンダーのユイを演じている。ドラァグクイーンのユイは性転換手術のためタイ・バンコクに滞在しており、高額な報酬の代わりにファン・ジョンミン扮するインナムの手伝いをさせられるという役どころ。劇中では妖艶な歌唱パフォーマンスまで披露し、場を一瞬にしてさらってしまった。
また、『密輸 1970』(23)では密輸に手を染める海女たちの弟分チャンドリ役で出演。野心家だがどこか憎めないチンピラをコミカルに演じたのが印象的で、派手な柄シャツにサングラス、オールバックの髪型もインパクト大だった。このほか、大韓義軍の作戦参謀役でヒョンビンやリリー・フランキーと共演した『ハルビン』(24)、北朝鮮国家安全保衛局の男を演じたスパイアクション『HUMINT/ヒューミント』(26)などでも確かな存在感を示してきたジョンミンは、近年の話題作やヒット作では欠かせない存在になっている。
ちなみに、演技に対する飽くなき探求心からか、ジョンミンは出版社の代表も務めている。その出版社「MUZE(無題)」の運営にあたり、2024年には俳優業を一時休業するなど取り組む姿勢は本物で、今年5月には出版社代表として東京出張も行っていた。このような多才さもまた、ジョンミンがファンを惹きつける理由なのだろう。

