日仏共同製作『私はあなたを知らない、』で新境地!中野量太監督が描く“家族”の物語はなぜ世界を魅了するのか?
「フランスは映画をアートとして捉える一方で、ビジネス面もないがしろにしない国」(矢田部)
——近年、『急に具合が悪くなる』や『化け猫あんずちゃん』(24)、『SUPER HAPPY FOREVER』(24)など、日仏共同製作の作品が増えているように感じます。今回の経験を経て、フランスとの共同製作には、作品を作るうえでどのような意味があると感じましたか。
中野「具体的に言えば、やはり予算ですね。『私はあなたを知らない、』の規模の企画を成立させられるということはすごく大きい。いまはとりわけ、中規模の映画は本当に苦しい状況にあります。日本だけで成立させようとすると制作費が小さくなり、結果的に作り手が苦しくなっていく。特に今回は原作のないオリジナル作品です。それだと日本ではさらに資金が集まりにくい。少しでも海外の資金を入れていかないと、本当に厳しくなると感じています。そして予算だけではなく、『外に目を向けて作品を作らなければいけない』という気持ちも大きくなる。最初から海外へ届けるつもりで作る。その意識を持っておかないとダメだと思っています」
ボーテ「予算はアートではなく、ただのお金です。私たちが作っている映画はアートであり、私はお金そのものには興味がありません。いいものを作りたい。できれば傑作を作りたい。それだけです」
中野「僕がめちゃめちゃお金を気にしているという話をした直後に(笑)。そういえばフレデリックは本作に無償で出演してくれましたね」
矢田部「フランスは映画をアートとして捉える一方で、ビジネス面もないがしろにしない国です。そのように映画を大切にしている国が日本映画の製作段階から関わってくれることには、文化的・産業的にとても大きな意味があると思います。フランスでは日本文化はアニメーションやコミックを通して広く浸透していますし、小津安二郎、成瀬巳喜男、黒澤明といった映画監督たちも非常に尊敬されている。日本映画は、小津に代表されるように家族の物語を語ることに優れていると捉えられていて、その伝統の上に中野監督の作品も位置づけられるのではないかと思います。そのように、日本文化や日本映画を愛してくれる土壌がもともとあった。それが現在増えつつある共同製作の動きにもつながっているのではないかと考えます」
——フランスには映画製作を公的に支援する仕組みがありますが、日本映画との共同製作でもそうした制度を活用できるのでしょうか。
ボーテ「できますが、ジャングルのように複雑です。フランスには国際共同製作を支援する仕組みがいくつもあって、例えば今回はCNC(フランス国立映画映像センター)の国際共同製作支援制度『シネマ・ドゥ・モンド』に申請しました」
中野「審査があって最後の数本までは残ったんですけど、落とされました。世界中から応募が来るので本当に狭き門なんです。加えて言えば、仮に助成を受けることができた場合、作品の仕上げ作業をフランス国内で行うなど、現地で一定の費用を使う必要が出てきます。フランスでの制作費は日本より掛かってしまうので、経済的には必ずしも得になるわけではない。ですが、こうした公的支援の選択肢があることで、チャンスが広がるのは確かです」
矢田部「そもそも、そうした国際共同製作の助成金に応募するためには、フランス側のプロデューサーが必要なんですよね。だから、すでにフレデリックさんやピラミデ・プロダクションズと関係を築けていること自体が大きな第一歩なんです。そこにたどり着けない企画がいかに多いか。まずフランス側のパートナーと関係を作ることが重要で、申請に通るかどうかはその次の話だと思います」
「国際共同製作の支援を活用したオリジナル企画の日本映画がもっと増えてほしい」(中野)
——今後の日本映画の国際展開をどう考えていますか。
中野「これからの日本映画は、もっと国際共同製作の方向へ進んでいかないと厳しいと思います。共同製作をどんどん増やしていくべきですし、それに伴って映画祭の重要性も高まっていく。ただ、海外の製作会社と一緒に作るとしても、僕はあくまで日本の映画を作りたいんです。その一方で、いつか海外を舞台にした作品にも挑戦してみたい。本作も僕にとっては新しい挑戦でしたし、ゆっくりではありますが、一歩ずつ前に進めている感覚はあります。目指す方向はおおよそ見えているんですが、そこへたどり着くのは簡単ではない。それでも、日本映画がダメになっていくのは嫌なんです。だから『これからはこうしていかなきゃいけない』という方向をきちんと見据えながら、進んでいきたいですね」
矢田部「中野監督が話したように、日本ではオリジナル企画を成立させることがなかなか難しい。だからこそ、国際共同製作によって自分たちの映画の可能性を広げようという考えは、若いプロデューサーたちにもかなり浸透し始めています。国際プロデューサーの育成コースのようなものが開催されると、ものすごい数の応募が来るようになった。みんなそちらに目を向け始めているんですよね。映画祭への出品はどうしても大きな話題になりがちですが、それは国際的な評価や認知度を示すひとつの指標にすぎません。中野監督は、映画祭とはまた違うところで、フランスで大きな興行的成功を収めている。興行で結果を出すことは誰にでもできることではありませんし、ある意味では映画祭に出品される以上に難しいことです。中野監督がそういう独自の道を切り拓いていることが、『国際展開にもいろいろな可能性がある』といういい刺激を日本のプロデューサーたちに与えている。同時に、『本当にいい脚本を書かなければダメだ』というプレッシャーも、多くの監督たちに与えているのではないでしょうか」
——最後に、これから本作をご覧になる方へメッセージをお願いします。
ボーテ「ぜひ観てください!中野監督の作品は、エンディングがとにかくすばらしい。『浅田家!』も、『湯を沸かすほどの熱い愛』も、そして『私はあなたを知らない、』も、とても美しい終わり方をします。フランスのプロデューサーとして、この作品に参加できたことをとても誇りに思っています。そして、日本映画との次のコラボレーションも楽しみにしています」
矢田部「『私はあなたを知らない、』のタイトルの意味を、映画を観終わったあとにぜひ噛みしめてほしいですね。最後の最後に大きな感動が待っていますし、観終わったあとにも長く余韻が残る。その余韻を楽しんでもらいたいです」
中野「僕にとっては新しい挑戦となった作品ですが、根っこの部分はこれまでとそこまで変わっていません。観た人にいろいろなことを感じてもらえる映画になったんじゃないかなと思います。そしてなにより、今回こうして国際共同製作という形で、オリジナル作品を作ることができた。僕はこういう日本映画がもっと増えてほしいんです。もちろん、この1本に日本映画の未来がかかっているなんて言うつもりはありません。でも、この作品がひとつの成功例になって、次の作品につながっていってほしい。そのためにも、まずはたくさんのお客さんに観てもらいたいです。切実に、この映画が成功してほしいと思っています」
取材・文/ISO

