時間を操り、映画技術を極める!『インセプション』『オッペンハイマー』から『オデュッセイア』へと至るクリストファー・ノーランの軌跡を振り返る

時間を操り、映画技術を極める!『インセプション』『オッペンハイマー』から『オデュッセイア』へと至るクリストファー・ノーランの軌跡を振り返る

歴史上の人物を描く濃密な人間ドラマに巨大フォーマットを持ち込んだ『オッペンハイマー』

原子爆弾開発を主導したロバート・オッペンハイマーの葛藤に迫る『オッペンハイマー』
原子爆弾開発を主導したロバート・オッペンハイマーの葛藤に迫る『オッペンハイマー』[c]Photoshot/アフロ

そして『オッペンハイマー』で、作家性と技術革新は一つの頂点を迎える。原子爆弾開発を主導したロバート・オッペンハイマーの主観と、その後の政治的闘争をカラーとモノクロを使い分け、複数の時間軸と視点で構成させたのだ。

撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマとの試みにより、史上初となるモノクロIMAXフィルムでの撮影を実現。コダックとフォトケム(共にアメリカに本拠を置く老舗のカメラ・フィルムメーカーとデジタル・ポストプロダクション)の協力によって新たなフィルムを実用化させ、歴史上の人物を描く濃密な人間ドラマにも巨大フォーマットを持ち込んだ。作品は第96回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞など7部門を受賞。ノーラン自身も初の監督賞を手にした。

全編IMAXフィルム撮影についに到達した『オデュッセイア』

ギリシャ軍の攻撃により、炎上するトロイアの城郭都市(『オデュッセイア』)
ギリシャ軍の攻撃により、炎上するトロイアの城郭都市(『オデュッセイア』)[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

こうして迎えた『オデュッセイア』で、長年追求してきたIMAX撮影はさらなるフェーズへと進む。物語はトロイア戦争の英雄でありながら神々の怒りを買ったオデュッセウス(マット・デイモン)が、一つ目の巨人や魔女、海の怪物といった過酷な試練に次々と直面しながら故郷への帰郷を目指すアドベンチャー。本作の映像化にあたりノーランは、陥落するトロイアの城郭都市や有名なトロイの木馬、巨人キュクロプスが暮らす洞窟、海の精霊カリュプソ(シャーリーズ・セロン)の美しい島、荒れ狂う大海原などを圧倒的スケール感で表現してみせている。

勇敢に怪物たちと戦うオデュッセウス(『オデュッセイア』)
勇敢に怪物たちと戦うオデュッセウス(『オデュッセイア』)[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

作品は全編を通じてIMAX独自の拡張アスペクト比を採用。IMAXフィルムプリント上映など対応設備を備えた劇場では、一般的なデジタルIMAXの1.90:1よりもさらに縦方向へ広い1.43:1の画面が、巨大なスクリーンの上下いっぱいまで展開する。観客は視界を覆い尽くす映像に圧倒され、物語世界へ深く没入する体験を味わうことになる。日本国内で1.43:1の上映に対応するのは、IMAXレーザー/GTテクノロジーを導入した109シネマズ大阪エキスポシティ(千里)とグランドシネマサンシャイン 池袋の2館。いずれもフィルムプリント上映ではなく、デュアル4Kレーザープロジェクターによって本来のIMAXフレーム比を再現する。

オデュッセウスが発案したトロイの木馬作戦によって、10年に及ぶ戦争に勝利するが…(『オデュッセイア』)
オデュッセウスが発案したトロイの木馬作戦によって、10年に及ぶ戦争に勝利するが…(『オデュッセイア』)[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

また音響面でも、IMAX劇場向けに最適化された専用サウンドミックスを用意。『オッペンハイマー』をはじめ3度のアカデミー賞作曲賞を受賞しているルドヴィグ・ゴランソンの独創的な音楽を、まったく新しい次元へと引き上げている。別規格フィルムとIMAXフィルムを併用してきた『オッペンハイマー』までの撮影スタイルから、ついに全編IMAXフィルム撮影へ。その技術的到達点に選ばれたのが、古代ギリシャを舞台とする英雄の帰還ストーリーなのである。


【写真を見る】クリストファー・ノーラン監督の歩みを振り返り!丸わかり年表
【写真を見る】クリストファー・ノーラン監督の歩みを振り返り!丸わかり年表[c]Everett CollectionAFLO 写真:Photoshot/アフロ

メメント』で時間を逆転させ、『ダークナイト』でIMAXを長編劇映画に本格導入し、『ダンケルク』では巨大カメラを極狭空間へ持ち込み、『TENET テネット』でIMAXフィルムを逆回転させ、『オッペンハイマー』ではモノクロIMAXフィルムを新たに誕生させたノーラン。その都度、物語が必要とする表現に撮影技術を適応させていき、次の作品でさらに進化させていく。こうした積み重ねが、13作目にして全編IMAXフィルム撮影という大きな成果につながった。

時間を操る話法、実景とフィルムメディアを重視する物質性、そして映画館という視覚環境への強いこだわり。20数年もの歳月をかけて磨き上げてきたすべてを携え、クリストファー・ノーランは時間を操った元祖の物語ともいえる『オデュッセイア』の写実的な解釈に挑む、集大成と言える作品だ。

文/尾崎一男

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