『ハムネット』ラストシーンが圧倒的に感動する理由とは?SF映画『メッセージ』ともつながる喪失と生命の円環
16世紀後半の英国の小さな村。子どもたちにラテン語を教えるウィリアムは、鷹を操る神秘的な女性アグネスと恋に落ちる。2人は結婚するが、作家を志すウィリアムはロンドンへ。一方、村に留まったアグネスは3人の子どもを一人で育てる日々を送るのだが…。『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオの最新作『ハムネット』(公開中)は、伝説的な劇作家ウィリアム・シェイクスピアの傑作「ハムレット」の背後に、長男ハムネットの存在があったとの仮説を出発点とした、マギー・オファーレルの同名小説の映画化である。
オファーレルは史実に大胆な想像力を織り込んだ。従来、夫のロンドン行きに同行しなかったことで“悪妻”と見なされがちだったアンを、自然と深く結びついた“魔女”アグネスとして再解釈したのである。本作で第98回アカデミー賞主演女優賞に輝いたジェシー・バックリーがアグネスを、ポール・メスカルがウィリアムを演じ、この語り尽くされた夫婦に新しい息吹を吹き込んでいる。
静かなサウンドスケープで物語に寄り添うマックス・リヒターの音楽
スコアを手掛けたのは、クラシックとエレクトロニクスを接続した作風によって現代音楽と映画音楽を横断してきたコンポーザー、マックス・リヒター。ジャオが彼を選んだ理由の一つは、本作と同時代の英国が舞台の『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(18)で、ルネサンスの旋律に、ミニマル・ミュージックの語法を重ねることによってフレッシュなスコアを書いていたからだろう。
期待に応えるように、リヒターは本作でさらに深化した音楽を提示する。『ふたりの女王』とは異なり、本作が描くのは庶民の生活である。煌びやかなストリングスは長い持続音に抑えられ、ハープやピアノ、ドローンが空間を満たす。その静かなサウンドスケープは、自然と深く結びついて生きるアグネスの精神を思わせる。それは、饒舌な言葉で世界を描くシェイクスピアの想像力の奥底にも、見えない形で作用しているように感じられる。
息子を失った悲しみを昇華した舞台「ハムレット」
物語の半ば過ぎ、悲劇が訪れる。ペストによってハムネットが、わずか11歳でこの世を去るのだ。アグネスは嘆き悲しみ、ウィリアムの不在を責める。だが彼はそのことについて感情を露わにしない。その沈黙への答えが、クライマックスに「ハムレット」の舞台として示される。
「生きるべきか死ぬべきか」苦悩する王子ハムレットを、まるでハムネットがそのまま成長したかのように見える青年に演じさせ(ハムレット役のノア・ジュープは、ハムネット役のジャコビ・ジュープの実兄である)、ウィリアム自身は父王の幽霊を演じるのだ。まるで、生と死の境界など曖昧であり、宇宙という同じ舞台の上では等価なのだと言わんばかりに。
