「『となりのトトロ』から影響を受けた」MV界の異才が語る、A24とタッグを組んだ『OCHI!-オチ-』のインスピレーションの原点とは?

「『となりのトトロ』から影響を受けた」MV界の異才が語る、A24とタッグを組んだ『OCHI!-オチ-』のインスピレーションの原点とは?

サクソン監督の人生を変えた、スタジオジブリ作品との出会い

パンフレットに掲載されるインタビューのなかで、「種を超えてのコミュニケーションや、子どもと動物が通じ合えること」が出発点だと語っていたサクソン監督。イメージを膨らませるため、自身が最初に描いた絵を、自ら「トトロっぽい」と認めているように、スタジオジブリ作品から受けた影響は絶大なようだ。

映画学校を卒業した直後に宮崎駿監督作品を観て、「彼の作品との出会いが私の人生を大きく変えたといっても過言ではない」と振り返るサクソン監督。実際に、サクソン監督がミュージックビデオ界で脚光を浴びるきっかけとなったビョークの「Wanderlust」のミュージックビデオは、ジブリ作品などからインスパイアを受けたことでも知られている。もちろん本作で描かれる自然と人間の対立のドラマは、『もののけ姫』(97)から着想を受けたものだ。

「ダークな作風という意味では『もののけ姫』に近いかもしれない。でも、動物との優しい関係や純真さという部分でいえば、『となりのトトロ』からも間違いなく影響を受けています。私が思うに『となりのトトロ』は、宮崎監督作品のなかで最もピュアな作品です。理屈に逆らい、夢のような物語で、まだ不安定な幼い子どもの感覚で作られている。夢と現実と想像の境界線がとても流動的です。『OCHI!-オチ-』は『となりのトトロ』ほど夢のような雰囲気はなく、もっと現実的な作品ですけどね」。

主人公ユーリの父を演じるのは、名優ウィレム・デフォー
主人公ユーリの父を演じるのは、名優ウィレム・デフォー[c] 2024 KURKAMART LLC AND IPR.VC FUND II KY. ALL RIGHTS RESERVED.

あくまでも現実的な作品に仕上げたのは、“大人”に向けて作ったファンタジーだからにほかならないだろう。「作中に描かれている家族を見て、大人が置かれている状況に気付いてほしい。子どもたちだけが偏見や先入観なく生きていて、自由に発想し、オープンで好奇心旺盛で現実を素直に受け入れている。つまりこれは、『子どもにもっと耳を傾けるように』という大人たちへの呼びかけだ」とも語っていたサクソン監督は、さらにこう補足する。

「(本作を通して)動物の脆さや純粋さを描きたいと思っていました。動物はユーリの周りにいる人間のように悪だくみをしたり、人の心を操ったり、嘘をついたりしない。ユーリは周囲が発する言葉を信用できず、そこから抜け出せずにいる。でもオチと出会うことで、そのまっすぐで偽りのない姿に惹かれていく。恐怖を感じたら身体で表し、すぐにわかる。それは彼女が自身の感情と向き合うきっかけにもなっています。自分の直感を信じ、正しいことや真実を追求できるようになる。それはすべて、オチと出会えたからなのです」。

『システム・クラッシャー』や『この茫漠たる荒野で』のヘレナ・ツェンゲルが主人公のユーリを演じている
『システム・クラッシャー』や『この茫漠たる荒野で』のヘレナ・ツェンゲルが主人公のユーリを演じている[c] 2024 KURKAMART LLC AND IPR.VC FUND II KY. ALL RIGHTS RESERVED.

実は本作は、当初はミュージカル作品として製作される予定だったそうだ。「脚本の初稿はミュージカルになっていました。いわゆる“第四の壁”を突破するような、みんなが急に歌いだすタイプではなく、映画の世界観のなかでキャラクターが音楽を用いて表現するタイプのミュージカルです。6年かけて脚本を書き、直していくたびにその要素は消えていきました」と明かしつつ、「でも僕にとってはまだ、ミュージカル映画という感覚があります」と、いくつかのシーンにその名残りがあることをほのめかしたサクソン監督。どのシーンのことなのかは、実際に劇場で確認してほしい。


構成・文/久保田 和馬

※宮崎駿の「崎」は「たつさき」が正式表記

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