「『となりのトトロ』から影響を受けた」MV界の異才が語る、A24とタッグを組んだ『OCHI!-オチ-』のインスピレーションの原点とは?
奇想天外なSFから重厚なヒューマンドラマ、さらにはホラーまで、ジャンルにとらわれず野心的な才能を次々と輩出してきた気鋭スタジオA24初の本格ファンタジー作品となる『OCHI!-オチ-』(公開中)。本作でメガホンをとったのは、ビョークやグリズリー・ベアなど著名アーティストのミュージックビデオを手掛け、本作が長編監督デビュー作となったアイザイア・サクソン監督だ。上映劇場で販売されるパンフレットには、本作の成り立ちやデザイン面でのこだわりなどについて語ったサクソン監督のロングインタビューが掲載されている。本稿では、それに収まりきらなかった部分から、サクソン監督が影響を受けた作品やインスピレーションの源となった部分に焦点を当てて紹介していこう。
物語の舞台は霧に包まれた村。その奥深くにある森には、大きな瞳と耳を持つふしぎな生き物“オチ”が棲んでおり、人々は何世代にもわたってその存在を恐れ遠ざけてきた。オチ狩りをする父(ウィレム・デフォー)に戸惑い、心を閉ざす少女ユーリ(ヘレナ・ツェンゲル)は、ある日ケガをした小さなオチを発見。伝承とは異なるオチの“本当の姿”を知ったユーリは、ひとりぼっちの幼いオチを家族のもとへ返そうと決意し、冒険の旅へと出発する。
中世と現代が入り混じった、“無時代感”の理由とは?
本作の特徴の一つは、“無時代感”だ。物語の舞台となる村は中世のような雰囲気を持つ一方で、ユーリが暮らす家のつくりや車、スーパーマーケットなど、現代的な要素も多数介在している。これについてサクソン監督は、「撮影場所でもあるルーマニアやカルパチア山脈、つまりトランシルヴァニア地方を実際に訪れた時、そういう印象を受けたからです。あの場所には映画で描かれているような世界が残っていて、いま現在も人々は本当にそういう生活を送っているのです」と説明する。
「まるで時代がミックスされたように、馬車とミニバンが同じ道路を走っていました。土地に頼り、動物や森などと関わり合いながら生活をしていると言ったほうがわかりやすいでしょうか。どの文化圏でも昔はそれが土台になっていました。ですが、いまでは現代文明が世界中のほぼすべての地域に浸透しています。そのなかでもたまに未開発の場所がある。それがカルパチア山脈であり、非常に興味を惹かれた部分でした」と、強烈なインスピレーションを受けたことを明かす。
さらにそれが、ストーリー上に重要な奥行きを与えることにもつながったという。「人間と自然の関わり合いを描くストーリーのなかに、レイヤーを与えることもできました。自然と共存しているけれど、同時に対立もしている。一方で、工業化した社会のなかで自然と関係を断って生きている人もいる。ユーリが町に出てスーパーマーケットに入るシーンがありますが、そこにいる誰も目の前の状況を理解できていない。あのような世界を構築できると考えただけでワクワクしました」。
そう語りながらサクソン監督は、自身がクリエイターとして多大な影響を受けた作品を例示する。「『スター・ウォーズ』も実はひとつの時代に固執していないんです。たとえ遠い未来でさえも、古いものと新しいものが入り混じっている。でも多くのファンタジー映画の場合、自然発生してしかるべき複雑さが排除されていて、中世や現代などの時代が特定されていたり、少しわざとらしい設定が与えられがちです。なので本作では、もっとリアルで複雑な世界を追求したいと考えました」。
