作品を売るのはディカプリオ、シャラメらスターか、映画祭の権威か?映画祭の“存在意義”が問われる、第98回アカデミー賞の行方
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、ゴールデン・グローブ賞、全米映画批評家協会賞など主要批評家賞をすべて制覇し、『シンドラーのリスト』(93)『L.A.コンフィデンシャル』(97)『ソーシャル・ネットワーク』(10)しか達成していない批評家賞完全制覇という快挙を遂げている。だが、1月のアカデミー賞ノミネーション発表の朝、『罪人たち』が史上最多タイとなる16部門ノミネートを記録し、レースは一変。アンダーソンの監督賞、そして作品賞受賞が確実視されていたのが、『罪人たち』のライアン・クーグラー監督が、黒人初の受賞となる可能性も上がってきた。
『マーティ・シュプリーム』のジョシュ・サフディ監督の弟、ベニー・サフディ監督の『スマッシング・マシーン』(5月15日公開)はヴェネチアでプレミアを行い、ベニーが監督賞を受賞している。だが『マーティ・シュプリーム』は、ヨーロッパの映画祭ではなく、サフディ監督の地元でロケ地でもある第62回ニューヨーク映画祭のオープニングでワールド・プレミアを行い、ニューヨークの批評家の強い支持を獲得した。ところが、『マーティ』はBAFTAで11部門ノミネートながら無冠に終わり、主演男優賞のフロントランナーと見られていたシャラメはBAFTAに続きアクター・アワード(旧SAG賞)も落としている。映画祭を経由しないキャンペーンは、ヨーロッパの投票会員への浸透という点で依然として死角を抱えている可能性がある。
大手スタジオとは真逆の戦略をとるNEON
スタジオが映画祭から距離を置く一方で、真逆の戦略で結果を出し続けているのが独立系配給会社のNEONだ。同社は過去6年連続でカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作を配給。第92回アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督、第72回カンヌ映画祭)と、第97回で同部門を制した『ANORA アノーラ』(ショーン・ベイカー監督、第77回カンヌ映画祭)で、パルム・ドールからオスカーへのゴールデンルートを二度確立してみせた。
今シーズンも、そのモデルは着実に機能したと言えそうだ。第78回カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したジャファル・パナヒ監督『シンプル・アクシデント/偶然』(5月8日公開)、グランプリのヨアキム・トリアー監督『センチメンタル・バリュー』(公開中)、監督賞・男優賞受賞の『シークレット・エージェント』(2026年公開)、審査員特別賞の『シラート』(6月5日公開)——NEONが配給する4作品が第98回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネート、俳優賞や技術賞など複数部門でのノミネートも果たした。
唯一の誤算は、パク・チャヌク監督の『しあわせな選択』(公開中)だったかもしれない。同作はもともと5月のカンヌがお披露目と噂されていたが、完成が間に合わず9月の第81回ヴェネチア国際映画祭にシフト。ところが審査委員長アレクサンダー・ペインとの相性が悪く無冠に終わり、トロント国際映画祭の国際観客賞を受賞するも、オスカーのノミネーションにはあと一歩届かなかった。カンヌという“ゴールデンルート”を逃したことが、最後まで響いたと見ることができるかもしれない。一方で、パク・チャヌク監督は今年5月に行われる第79回カンヌ映画祭で、韓国の映画人として初めて審査員長を務めることが発表された。因果はどこで巡るかわからないものだ。
