作品を売るのはディカプリオ、シャラメらスターか、映画祭の権威か?映画祭の“存在意義”が問われる、第98回アカデミー賞の行方

作品を売るのはディカプリオ、シャラメらスターか、映画祭の権威か?映画祭の“存在意義”が問われる、第98回アカデミー賞の行方

今年2月に行われた第76回ベルリン国際映画祭には、ハリウッドの大手スタジオ製作の映画は1本も出品されなかった。200本以上のラインナップを眺めれば、その“不在”は際立つ。

The Hollywood Reporterの記事によると、ベルリン映画祭のディレクターであるトリシア・タトルいわく、この傾向はベルリンに限ったことではなく、映画業界全体の状況が起因しているという。『罪人たち』、『ワン・バトル・アフター・アナザー』、『ズートピア2』、映画『F1(R)/エフワン』、『WEAPONS/ウェポンズ』といった2025年の主要スタジオ作品はいずれも映画祭ルートを回避し、2025年5月のカンヌ国際映画祭に出品した『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が唯一の例外だった。

大手スタジオ作品が映画祭を回避する中、カンヌ国際映画祭でプレミア上映を行った『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』
大手スタジオ作品が映画祭を回避する中、カンヌ国際映画祭でプレミア上映を行った『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』[c]Everett Collection/AFLO

映画祭における“宣伝価値”の変化

背景にあるのは「炎上リスク」への過剰な警戒。スタジオのマーケティング幹部たちは、映画祭での評判が瞬時に拡散し、公開前にキャンペーンそのものを潰しかねないと危惧する。映画祭でプレミア上映となるとエンバーゴ(情報解禁日)を設定することもできず、評判をコントロールできない。大きな転換点となったのは2024年だったと考えられる。第76回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得し、全世界で10億ドル以上のヒットとなった『ジョーカー』(19、トッド・フィリップス監督)の続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(24)は、第81回ヴェネチアで評判が振るわず興収2億ドル程度に留まった。同年第77回カンヌ映画祭出品の『マッドマックス:フュリオサ』(24)も1.74億ドルと興行成績は前作ほど振るわず、ケヴィン・コスナーの『Horizon: An American Saga - Chapter 1』は4000万ドル以下と大失敗に終わった。華やかなレッドカーペットのインプレッション数やスタンディングオベーションの分数は興行を保証しない、その現実をスタジオは改めて突きつけられた。

前作と比較すると、興収は5分の1程度となってしまった『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
前作と比較すると、興収は5分の1程度となってしまった『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』[c]Everett Collection/AFLO

加えて、マーケティングの構造変化も影響している。SNSやTikTokが集客を左右する時代に、映画祭のメディア露出の宣伝価値は相対的に低下しつつある。ティモシー・シャラメが主演作『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(公開中)で体現したゲリラ的なバイラル戦略が、いまやレッドカーペットよりも有効な宣伝になりつつあると見ることもできる。

映画祭を経由しない“炎上回避”ルート


アカデミー賞作品賞の有力候補とされる『ワン・バトル・アフター・アナザー』
アカデミー賞作品賞の有力候補とされる『ワン・バトル・アフター・アナザー』[c] 2025 Warner Bros. Entertainment Inc. and Domain Pictures, LLC. All Rights Reserved.

では実際に、映画祭を経由せずオスカーの頂点に届くことはできるのか。今シーズンはその実験場になったと言えるかもしれない。ワーナー・ブラザースは今年の第98回アカデミー賞レースで稀有な状況に直面している。配給する『ワン・バトル・アフター・アナザー』と『罪人たち』が、ともに最有力候補として激突している。注目すべきは、両作品ともヨーロッパ三大映画祭を一切経由していない点だ。その背景には、「炎上リスク」の回避だけでなく、コスト面の事情も絡んでいる可能性がある。スターや監督を勢揃いさせ映画祭へ参加するには1作品あたり100万ドル近い経費がかかると言われており、身売りを見据えて企業評価額を引き上げなければならなかったワーナーにとって、そのコストを避ける動機は十分にあったと考えられる。

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