漫画家・大友しゅうまが『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』を描き下ろし!「最低&最高な主人公と卓球への狂気的情熱にフォーカス」
「バスタブシーンで空気が一変した」
監督のジョシュ・サフディといえば、本作以前まで共同監督を務めてきた弟ベニーと共に、犯罪を重ねることでしか生きられない兄弟を描いた『グッド・タイム』、宝石商の男がギャンブルで借金苦から抜けだそうとする『アンカット・ダイヤモンド』など、人生に追い詰められた男がそこから這い出ようとする姿を題材にしてきた。本作におけるマーティもまた、叔父から強盗で訴えられ、幼なじみのレイチェルには彼の子を妊娠したと告げられるなど、様々なピンチに陥る。
というわけで、マーティは金策のためにあの手この手で駆け回るのだが、どれもこれもがことごとく失敗。どんどん負のスパイラルに陥っていき、挙句の果てに命を落としかねない状況にも直面する。
再起を図るマーティの奮闘ぶりをスピード感あふれる展開で映しだし、ブラックユーモアも差し込まれるなど、観る者をまったく飽きさせない。こうした演出面についても大友は「大胆で観ていて気持ちいい」と絶賛。「バスタブのシーンは衝撃的でとても驚きました。痛々しい描写でもあるので空気も一変したと思います(笑)。また、マーティがユダヤ人であることから、ホロコーストでの出来事が語られるなど歴史と地続きになっているのも印象的でした」など忘れがたいシーンばっかりだったと振り返る。
「戦後の日本が忠実に再現されていると感じました」
撮影監督はデヴィッド・フィンチャーの『セブン』(95)やミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(12)、アリ・アスターの『エディントンへようこそ』(25)にも参加したベテランのダリウス・コンジ。35mmフィルムとヴィンテージレンズを使用し、本当に1950年代のニューヨークで撮られたようなざらついた質感はリアリティ抜群で、観客をスクリーンにぐんぐん引き込んでいく。
「当時の空気感、雰囲気がちゃんと出ていました。きれいすぎると違和感があったかもしれません」と映像面のすばらしさにも言及する大友。続けて、東京の上野恩賜公園などで撮られた日本の描写にも触れ、「もちろん、戦後の日本を体験しているわけではありませんが、作り込みの細やかさからも忠実に再現されていると感じました。映像にはその説得力がありますし、日本人としてもうれしいです」と語っている。
「いい意味で裏切られたという衝撃を受けてほしい」
最後に本作をこれから観る人にオススメするなら?と聞いてみると、「紹介マンガを描いている身ではあるのですが」と前置きしたうえで、「理想を言うとあまり前情報を入れずに観ていただいて、いい意味で裏切られたという衝撃を受けてほしいです。今回のマンガでもマーティのクズっぷり、狂気的な卓球への情熱にフォーカスしました」と述懐。ジェットコースターのように浮き沈みのあるマーティの奮闘にただ身を任せるのが、この作品を最もおもしろく観る方法なのかもしれない。
第98回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など9部門にノミネートされている『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。賞レースでも話題を集めている本作の衝撃をぜひ没入感ある劇場で体感してほしい!
取材・文/平尾嘉浩
