“タランティーノ風”は日本では不可能!?押井守監督が『パルプ・フィクション』で解説する、日本語とスラングの関係性【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」第6回後編】

“タランティーノ風”は日本では不可能!?押井守監督が『パルプ・フィクション』で解説する、日本語とスラングの関係性【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」第6回後編】

「好きな映画のコピーは終わったから、思い残すところはないんじゃないの」

――『ワンハリ』大好きだったけど、ダメですか?

「ネタが多すぎて整理できてないの。ブルース・リーやマンソン・ファミリー、(ロマン・)ポランスキーのネタもある。ダメなのはヒッピーのエピソード。あれは蛇足ですよ。私がヒッピームーブメントが好きじゃないという理由もあるけどさ。『ワンハリ』でいいのはブラピくん(ブラッド・ピット)だけ」

前日譚の制作も決定している監督第9作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
前日譚の制作も決定している監督第9作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』[c]EVERETT/AFLO

――ブラピはオスカー助演男優賞を取りましたよ。タランティーノも、あの時代のハリウッドを描くのがうれしくってしょうがないという感じでかわいかったですけどね。

「『キル・ビル』で東映のヤクザ映画をやってうれしいというのと同じです。そういうのはまさに映画ファンから監督になった典型。映画のオマージュからしか映画をつくれない。それはそれでいいといえばいいんだけど。タランティーノが映画の世界に持ち込んだ新しい発見は『パルプ』だけですよ」

――押井さん、『ワンハリ』のプリクエル(前日譚)が今度つくられるんです。ブラピが演じていたスタントマンの若いころを描いていて、脚本はタランティーノ、なんとメガホンは(デヴィッド・)フィンチャーですよ!スタントマンには、かつて妻を殺したというウワサがあって、その辺を描くのでは?と言われてますが。

「それはフィンチャーで正解じゃない?ソリッドでかっこよく仕上がるよ、きっと。そういうスタイルはタランティーノは無理だから。彼が監督だとどうしてもB級っぽくなる。たとえ『キル・ビル』のようにお金をかけてもB級だから。フィンチャーはいつもいいわけじゃないんだけど、映画の風貌は変わらない。独自のスタイルがちゃんとある。芸風は変わらないのが監督なんです。

ジャンル映画愛が炸裂した監督第4作『キル・ビル』(写真は『キル・ビル Vol.1』より)
ジャンル映画愛が炸裂した監督第4作『キル・ビル』(写真は『キル・ビル Vol.1』より)[c]EVERETT/AFLO

マイケル・ベイはどんなにがんばってもマイケル・マンのような映画はつくれない。私はマンが大好きなの。なぜなら大人だから。ベイはすぐにはしゃいじゃう。それも大金をかけて」

――でも押井さん、『パルプ』は裏切られてみんなが幸せになった映画ですよね。ドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』のように観客を選んでいない。

「観客が求めてなかった要素でおもしろがらせることが出来たんだよね。『メッセージ』の場合は、同じように時系列をいじって『金返せ』になったのに『パルプ』はなってない。そのひとつの違いは監督としての立ち位置の差です。ヴィルヌーヴは簡単に言ってしまえば芸術家タイプというか、自分の真実を追うタイプ。映画をおもしろがるタランティーノとは違うんです。興行的な側面を考えると、普通はタランティーノのほうが成功しやすいと思うけどそうなっていないのは、やはり大作が向いていないから。たぶん『DUNE/デューン』シリーズのような予算で映画を撮ることはできないと思うよ、タランティーノは」

引退作とされる監督10作目は一体どんな映画になる?
引退作とされる監督10作目は一体どんな映画になる?[c]EVERETT/AFLO

――タランティーノは長編をあと1本撮ったら監督業を卒業すると言っていますけどね。その1本で丁度10本になります。

「監督としてはひと通り、好きな映画のコピーは終わったから思い残すところはないんじゃないの。でも、映画大好きなタランティーノだから、製作や脚本をやって映画から離れることはないよ、絶対」


取材・文/渡辺麻紀

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